約 1,746,356 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9111.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十四話「凶刃の侵略者」 光波宇宙人リフレクト星人 高速宇宙人スラン星人 奇怪宇宙人ツルク星人 暗闇宇宙人カーリー星人 登場 マグマ星人率いる宇宙人軍団を撃退した翌日、ルイズ、才人、シエスタ、そして春奈の四人は、 パトロールのためにトリスタニアの街の捜索を行うことにした。侵略者たちの破壊工作の目的が 不明な以上、今日もまた敵が爆破騒ぎを起こすかもしれないからだ。 「あの憎き侵略者たち、また現れたら、今度はとっ捕まえて何の目的があるか吐かせてやるんだから!」 ルイズは俄然張り切っているが、才人はそれをなだめるように言い聞かせる。 「あんまり血気に逸って、無茶するんじゃないぞ。まだ侵略者たちに、どれだけの戦力が あるか分からないんだ。昨日みたいに、戦いに優れた奴が出てくるかもしれない。いつも 無事に勝てるとは限らないんだぜ」 「何よ、その言い方。わたしを子供扱いするつもりなの!?」 才人の物言いにルイズは、興を削がれたような気分になって不機嫌になった。 「実際、宇宙人からしたら子供みたいなもんだろ。敵はそれだけ恐ろしいんだ」 「な、何よぉ! ご主人さまの力が信じられないって訳!?」 「だから、油断をするんじゃないってことを言ってるんだって――!」 「お二人とも、落ち着いて下さい。天下の往来ですよ……」 些細なことで言い争いになるルイズと才人を、シエスタが慌てて止める。その構図に、 水筒の水をあおった春奈はハァとため息を吐いた。 「ふぅ……こんな調子で大丈夫なのかな……?」 ぼやきながら、ふと視線を脇へそらすと、突然目を見開いた。 「あッ、あの鞄!?」 と発すると、急に踵を返してどこかへ走り去っていこうとする。 「えッ!? ハルナさんどちらへ?」 「ち、ちょっと! ハルナ、どうしたの?」 当然ルイズたちは驚き、すぐに春奈の背中を追いかける。才人が一番に追いつくと、 何事か問いかけた。 「どうしたんだよ春奈? いきなり血相抱えて」 春名はそれの、すぐに返答した。 「わ、私のバッグを持っていた人がいたの!」 「バッグ? それがどうしたのよ?」 ルイズには鞄に執着する理由が読めなかったが、春奈はそれについてこう語る。 「ただのバッグじゃないの。……私がこの世界に連れてこられた時に、持ってきていた 唯一のバッグなの!」 地球からの春奈の持ち物を持っていた人がいたという。その証言に驚く才人。 「そ、それを早く言えよ。どっち行ったんだよ! そのバッグを持った奴って!」 「ええと……。あ、あっちの方!」 焦る春奈は、鞄を持っているという者の後ろ姿が路地裏に入っていくところを目にして、 自身もその路地裏に入っていく。才人たちは出遅れてしまった。 「ま、待てって春奈! 罠かもしれないんだぞ!」 追いかけながら警告したが、もう遅く、気がつけば春奈も見失ってしまい、無人の裏通りに 迷い込んでしまっていた。 「く、くそう! どこ行ったんだよ!」 「ハルナさん、一人で大丈夫でしょうか……?」 才人とシエスタが周囲に目を走らせて春奈の姿を探していると、突然ゼロが声を上げた。 『ちょっと待て。様子が変だぜ』 「え?」 『まずいな……。罠に掛かったのは俺たちの方だったみたいだ。囲まれてやがる!』 『キエエエエエッ!』 ゼロの言葉の直後に、通りの陰から、丸いシルエットが三人に飛び掛かってきて、剣を 振り下ろしてきた。 「危ないッ!」 「きゃッ!?」 才人が反射的にデルフリンガーを抜いてルイズとシエスタをかばい、影の剣を防御した。 丸い影は背後へ下がり、石畳の上に着地する。 『フッフッフッ、地球人のくせに私の剣を受け止めるとは、なかなかやるものですねぇ』 影の詳細な姿が、白日の下に晒される。いくつものトゲが生えた銀色の丸いボディに、 手足が生えているという、一見するとコミカルな姿だが、トゲや手の甲から伸びる剣は 紛れもない凶器だった。 「何あの、ウニみたいな奴!」 『お前は、リフレクト星人!』 ゼロは宇宙人のことを知っていた。過去にウルトラマンメビウスがなすすべなく敗れたことがある、 強敵武闘派宇宙人、リフレクト星人だ。 『如何にも、私はリフレクト星人。下等な虫けらの諸君、御機嫌よう。もっとも、すぐ お別れすることになりますがね』 「む、虫けらですって!?」 リフレクト星人の口ぶりとは正反対の無礼さに、ルイズがプライドを傷つけられて憤怒した。 が、リフレクト星人は構わずに続ける。 『それと、連れの者たちも紹介しましょう。出てきなさい!』 「グウオオオオオ!」 ルイズたちのいる場に、細身のシルエットがどこからともなく飛び出てきた。だが新手の影は、 移動スピードが信じられないほど速く、ルイズやシエスタの目では残像しか捉えられなかった。 才人がウルトラゼロアイで射撃するが、新手は難なく回避し、三人の背後に来てようやく停止する。 「キュキュウーイ!」 「ファア―――!」 敵はそれだけではなかった。更に左右から、両手に刃を生やした怪人と両肩に三日月状の とがった角を取りつけた怪人の二人が襲い掛かってくる。 「きゃああッ!」 「ぐぅッ!」 さすがに二人同時の攻撃は防御し切れない。才人を含め、ルイズたちは咄嗟に転がって、 向かってきた刃をかわす。才人は端末で、新たに出現した敵三人の情報を引き出した。 「スラン星人! ツルク星人に、カーリー星人!」 どれもが攻撃性の高い、凶悪な宇宙人だ。才人たちは四人もの宇宙人に囲まれてしまい、 逃げ場を失ってたじろいだ。そんな中で、リーダー格であるリフレクト星人が口を開く。 『あなた方のことはよく聞いてますよ。つい昨日も、我々宇宙人連合の計画を妨害してくれたとか。 そういうことですので、まずは邪魔者を片づけてからゆっくりと計画を遂行するために、私たちが 派遣されたという訳です』 「くッ、先に俺たちを狙うことにしたのか……!」 脂汗を浮かべて歯軋りする才人。この状況はまずい。狭い空間に敵が四人など、この場で ゼロに変身したとしても、ルイズとシエスタを守り切れるかどうか分からない。 『雑談はこのくらいにしましょう。さっさと仕事を片づけさせてもらいますよ!』 リフレクト星人たちは考えを練る時間も与えてくれずに、四人一斉に飛び掛かってきた。 それで才人はいちかばちか、ゼロアイで変身しようとする。 その瞬間に、頭上から火炎と氷の槍が宇宙人たちに降りかかり、足を止めて才人たちの窮状を救った。 『何!? 誰だッ!』 リフレクト星人が顔を振り上げると、彼らの上空に、一匹の風竜が漂っていた。そして その背の上に乗っているのは、もちろん……。 「キュルケ! タバサ!」 「ハァイ、ルイズ。あなたたちは、いつもピンチの真っ只中にいるわね」 「間一髪」 いつものキュルケとタバサのコンビだ。ルイズがすぐに尋ねかける。 「もう大体予想つくけど、どうしてここにいるのよ?」 「そりゃもちろん、あなたたちが王宮に呼び出されて、日付が変わっても帰ってこないから、 また面白そうなことに関わってると思って……」 「グオオオオ!」 キュルケが話している途中で、スラン星人がシルフィードへと光弾を発射した。シルフィードは スイッと下がって、光弾を回避する。 「ちょっと、レディの会話をさえぎらないでもらえる? 育ちが悪いわね」 「言っても無駄」 タバサがひと言つぶやくと、キュルケとともに炎と氷の攻撃を宇宙人たちに降り注ぐ。 リフレクト星人は前腕に装着した盾で防ぎ、他の三人は素早く飛びすさってよけた。 『ええい、うっとうしい! 虫けらは虫けららしく、踏み潰してやりましょう!』 キュルケたちの加勢に苛立ったリフレクト星人が高く跳躍すると、スラン星人たちもそれに 続いてジャンプする。 そして四人の宇宙人たちは、40メイル級に巨大化してトリスタニアに降り立った。ツルク星人と カーリー星人は、蜥蜴人間のような容姿に変化までしている。 「もう、ウチュウ人ってすぐこれなんだから! 卑怯じゃない!」 「退却」 瞬く間に各地で悲鳴が沸き上がる中、タバサたちはルイズたちを回収するために一旦降下する。 才人はシルフィードの上にルイズとシエスタを乗せると、彼女らに告げた。 「お前たちは、春奈を探してくれ! あいつも狙われてるかもしれない! 俺はその間、 宇宙人たちを引きつける!」 「無理しないでよ!」 リフレクト星人が迫ってくるので、シルフィードはすぐに飛び立って退却していった。 一人残った才人は、巨大化した剣が自分へ振り下ろされるのを見上げながら、ゼロアイを装着した。 「デュワッ!」 直ちに変身したウルトラマンゼロは、ゼロスラッガーで剣を押し返しながら巨大化し、 リフレクト星人と激しくにらみ合う。 『ウルトラマンゼロォ……! 我がリフレクトの同胞の、ウルトラ一族への恨み、ここで 晴らしてやりましょう!』 『やれるもんならやってみなッ! 二万年早いってこと、教えてやるぜ!』 リフレクト星人と鍔迫り合いするゼロだが、その横からスラン星人、ツルク星人、カーリー星人が 攻撃を加えようとする。 「グウオオオオオ!」 「ゲゴオオオオオオウ!」 「ギャーアーゴ―――!」 スラン星人の手の甲から伸びた刃、ツルク星人の腕の剣、カーリー星人の肩の角がゼロへ差し迫る。 一方のゼロは、リフレクト星人と押し合っていて無防備。ゼロのピンチ! 『はぁッ!』 その時、街の家屋のガラス窓が輝いた。そして銀色の光の中からミラーナイトが飛び出し、 ツルク星人に飛び蹴りを入れる。 『ジャンファイト!』 はるか上空からはジャンボットが降下してきて、スラン星人にタックルを決めて弾き返す。 『ファイヤァァァァ―――――――!』 そしてカーリー星人の眼前にグレンファイヤーが登場し、顔面にパンチを浴びせて突進を止めた。 「あッ! ウルティメイトフォースゼロだぁ!」 トリスタニアのどこかで、子供の喜びの声が上がった。四人の宇宙人相手に、ウルティメイトフォースゼロも 四人全員出動したのだ。 『あなた方のお相手は、私たちがしましょう』 『ゼロにも人々にも、手出しはさせん!』 『さってと、とっとと始めようぜぇッ!』 仲間たちが敵三人を止めてくれたので、ゼロは心置きなくリフレクト星人と対決することが 出来るようになった。ゼロは依然鍔迫り合いしながら問いかける。 『やい! お前ら宇宙人連合は、春奈をこの世界にさらってきたり、爆弾で街を破壊したりして、 何をたくらんでるんだ! 知ってることを話しな!』 すると、リフレクト星人はせせら笑いを返した。 『ふふ、私は知りませんねぇ。作戦はマグマ星人の立案したもの。我々はただ、教えられた役割を 果たすだけ。どういう作戦かには興味がありませんねぇ』 『そうかい……。だったら、もう遠慮はしねぇぜ! ぶっ飛ばすッ!』 甲高い金属音を鳴らして、ゼロスラッガーと剣が離れる。それに合わせるように、ゼロと リフレクト星人も距離を取った。 「ジュワッ!」 後ろへ下がったゼロはエメリウムスラッシュを発射。しかし緑色のレーザーは、リフレクト星人の 丸盾で防御されると、折れ曲がってゼロへ戻っていく。ゼロは上半身を横に傾けてレーザーをかわした。 『ちッ。お前の種族には光線技が効かないっての、ホントなんだな』 『その通りです。光線が武器の輩には、私は天敵なのですよ』 ゼロのつぶやきに、リフレクト星人は自信満々に肯定した。 リフレクト星人の身体は、誘電体多層膜ミラー構造という、光線の吸収率が全くない 特殊な造りをしている。そのため、ウルトラ戦士の必殺光線すら完全に通用しないのだ。 ウルトラマンメビウスはリフレクト星人との初戦時、この特性によって攻撃がことごとく はね返され、完敗を喫したのだった。 だがゼロは、光線技が効かないことにひるみはしなかった。 『光線技が駄目なら、それ以外で倒すだけだぜッ!』 離した距離を再び詰め、ゼロスラッガーで剣戟を繰り広げる。 そう、ウルトラマンレオ直々の手ほどきを受けたゼロは、近接戦闘にも優れている。 メビウスもレオに課せられた特訓の成果により、リフレクト星人を破ったのだ。ならば 同じレオに育てられたゼロが負ける道理はない。 『ふぅんッ!』 だと思いきや、リフレクト星人の剣によって、ゼロスラッガーが両方ともゼロの手中から 弾き飛ばされた。宙を舞ったスラッガーはゼロの頭に戻る。 『何ッ!』 『フッフッフッ。考えが甘いですね。私の剣技はリフレクト星でも随一! 私の方こそ、 近接戦闘を得意としているのですよ!』 驚くゼロに堂々と言い放つリフレクト星人。どうやら、自身の防御性能に慢心せずに、 直接の戦闘能力も鍛え上げているようだ。これは強敵だ。 しかし、それでもゼロは動じない。むしろ逆に、より闘志をかき立てる。 『面白いじゃねぇか! だったら剣での勝負と行こうぜ!』 対抗心を燃やしたゼロは、円盤生物戦の時のように、巨大化させたデルフリンガーを出して 柄を握り締めた。今度は、デルフリンガーでリフレクト星人と斬り合う。 『はぁぁぁぁぁッ!』 『キェェェェェッ!』 ゼロとリフレクト星人が気合いを発し、剣と剣を交えた。 「ゲゴオオオオオオウ!」 『はッ! たッ!』 ゼロがリフレクト星人と戦っている一方で、ミラーナイトはツルク星人の両腕の刀から 繰り出される斬撃をかわしていた。流麗な動きで、見事に敵の攻撃を回避する。 「ゲゴオオオオオオウ!」 『……見た目に反して素早い身のこなしと太刀筋。これは厄介ですね……』 しかし同時に、なかなか反撃に出ることも出来ずに手をこまねいていた。ツルク星人は 両手の刀を交互に繰り出す素早い二段攻撃を得意とする。その連続技の完成度は、実戦経験が 不足で未熟だった頃とはいえ、格闘の達人のレオが一度なす術なくやられたほどなのだ。 だがミラーナイトも技巧派の戦士。連続の斬撃の間のかすかな隙を見つけ、宙返りしながら 高く跳び上がる。 『やッ!』 「ゲゴオオオオオオウ!」 空中からミラーナイフを放つが、ツルク星人が顔面の前で交差した刀に易々と防がれた。 ツルク星人の刀は、切れ味も硬度も天下一品。攻守ともに使える恐ろしい武器なのだ。 「ゲゴオオオオオオウ!」 そして落下してきたばかりのミラーナイトに、その凶器を振るう! ミラーナイトにかわす暇はない! ……が、刀が叩き込まれると、ミラーナイトの姿が粉々に砕け散った。今斬ったのは鏡。 ミラーナイフを防御したことでツルク星人の視界が塞がれた一瞬の間に作った身代わりなのであった。 「!?」 『私はここですよ! はぁッ!』 割れた鏡の後ろから、本物のミラーナイトが飛び出す。そして両手のチョップでツルク星人の 刀と腕のつけ根を打ち、刀をへし折った。ふた振りの刃が宙を舞う。 『とぁッ!』 ミラーナイトはもう一度ジャンプし、舞った刀を指ではっしと掴む。そして落下の勢いを乗せて、 ツルク星人の胸に深々と突き刺した。 『お返ししましたよ』 ミラーナイトが短く告げると、ツルク星人は背後にバッタリと倒れ込んで、そのまま絶命した。 己の自慢の武器が死因となる、皮肉な最期だった。 また他方では、ジャンボットとにらみ合っているスラン星人が、ジャンボットに問いかける。 『ウルティメイトフォースゼロよ、何故この星の人間を守ろうとする。この星の人間に、 守るだけの価値があるのか?』 『何? それはどういうことだッ!』 ジャンボットがきつい口調で問い返すと、スラン星人はこう語り出した。 『このハルケギニアは美しい星だ。だがこの星の人間は、大地を、空を汚し始めている。 星の悲鳴が聞こえないのか』 ハルケギニアは魔法文明なので、工業は地球と比べればほとんど発達していない。しかし 資源の大量採掘や森林伐採、工場の排煙による大気汚染などの環境破壊はゲルマニアなどで 徐々に進行している。いずれは、地球と同じように環境問題に頭を悩ませるようになることだろう。 『その前に、我々スラン星人がこの星をもらい受けることで、この星を救うのだ。星を苦しめる者どもを 守ることに何の価値があるというのだ!?』 と突きつけるスラン星人に、ジャンボットは言い返した。 『侵略行為による救済など、間違っているぞ!』 『何だと!?』 『確かにこの星の人間は、貴様の言うような過ちを犯している。だが人間には、過ちを正そうという 心がある。人間は自らの手で、星を、自身を救えるはずだ。私は信じている!』 惑星エスメラルダを護ってきたロボット、ジャンボットは見届けた。外宇宙から現れた 「ベリアル」という最大の脅威を、人間たちが紡ぐ「光」が打ち破ったことを。その未来を 掴む「光」は、ハルケギニアの人々の心にも宿っているはずだ。 『昨日今日やってきただけの外来者に、この星の未来を語る資格はない!』 ジャンボットに言い切られると、スラン星人は頭をかきむしって憤慨した。 『黙れ、屑鉄ロボットが! 何と言おうと、我々がこの星を頂くのだ!』 『ふッ、どれだけ言葉で飾ろうと、貴様は所詮傍若無人な侵略者に過ぎないのだな! 態度が 物語っているぞ!』 『えぇい、うるさいッ! 我が動きについてこれるかッ!?』 スラン星人は体勢を直すと、超高速で横にスライドし出した。ジャンボットは一瞬にして、 周囲全てをスラン星人の残像に取り囲まれる。 『むッ!? 何というスピードだ!』 「グウオオオオオ!」 スラン星人は超高速移動を行ったまま、両腕から光弾を連続発射する。移動と発射の合わせ技により、 ジャンボットは360度から攻撃を食らう。 『ぐううぅぅぅぅぅぅッ!』 相手のあまりの速さにより、どこから撃ってくるかが見切れず、ジャンボットは食らうがままになる。 しかし鋼鉄のボディと熱い正義の心を持つ彼は、それしきの逆境ではくじけない。 『私は鋼鉄の武人、ジャンボット! その程度の目くらましでは、私は翻弄されないッ!』 レーダーと電子頭脳をフル活用して、スラン星人の動きのパターンを捕捉する。そして 左腕を上げて、相手の残像の一箇所に狙いを定める。 『ジャンナックル!』 ロケットパンチが飛んで、残像の列に飛び込むと、見事スラン星人の実体を殴り飛ばした! 「グオオオオオ!?」 『ビームエメラルド!』 すかさず頭部から発射口がせり上がり、必殺レーザーを照射した。ビームエメラルドは 狙い違わずスラン星人に命中し、一撃で粉々に吹っ飛ばした。 「ギャーアーゴ―――!」 カーリー星人は腰を折って両肩の角を前に突き出すと、その姿勢のままグレンファイヤーへ 一直線に突進を仕掛けた。グレンファイヤーは速く、同時に重い突進攻撃を正面から食らう。 カーリー星人の最大の武器は、角を活かしたこの突進。その威力は、ウルトラマンレオの 巨体を軽々と吹っ飛ばしたほどもある。 『へッ! 今のが体当たりのつもりなのかよ!』 「ギャーアーゴ―――!?」 だが、グレンファイヤーは角をガッシリと掴んで、突進を受け止めていた。捕らえられた カーリー星人は、拘束を振りほどくことが出来ずに慌てふためく。角から電撃を放つも、 それでもグレンファイヤーの手は離れない。 グレンファイヤーはパワー型の熱血戦士。肉体を駆使した正面対決ではカーリー星人の方が、 分が悪かったようだ。 『テメェの突進なんて、ジープなんかと比べりゃちっとも大したことねぇぜ! ファイヤァァァァァ――――――――!』 「ギャーアーゴ―――!」 グレンファイヤーは胸のシンボルを浮き上がらせ、全身を燃え上がらせる。その炎はカーリー星人に 燃え移り、そのまま大爆発を引き起こした。 『へっへーん! ざっとこんなもんよ!』 カーリー星人を爆散させたグレンファイヤーは、頭部の炎をかき上げて見得を切った。 他の三人の宇宙人は倒され、残るはリフレクト星人だけである。そのリフレクト星人は、 ゼロと激しく火花を散らして切り結んでいた。 『うりゃあッ!』 だがゼロがデルフリンガーを大きく振り上げると、それと衝突したリフレクト星人の剣が 半ばからへし折れ、地面に突き刺さった。 『ば、馬鹿な! 私の剣が、人間如きの剣などに!?』 大ショックを受けるリフレクト星人に、ゼロが告げる。 『デルフはただの剣じゃねぇ! 俺たちの仲間だ! テメェの魂のこもってない剣なんかじゃ、 勝てっこなかったのさ!』 『くぅぅ……! こうなったらぁッ!』 武器を失ったリフレクト星人は、突如左腕を避難中の市民たちに向けると、丸盾からチェーンを 発射した。彼らを人質に取ろうという考えだ。丁寧な口調を使いながらも、リフレクト星人も本質は ルール無用の侵略者。追い詰められて、化けの皮を剥がしたのだ。 「きゃあああぁぁぁぁ!」 狙われた市民が悲鳴を上げる。だがチェーンは横から飛んできたゼロスラッガーに弾かれ、 力なく街の狭間に落下した。 『何ッ!?』 『どうせそんなことすると思ったぜ! 見え見えなんだよ、せこい考えがッ!』 そしてこれはリフレクト星人の失策だった。気が市民にそれたことでみすみすゼロに攻撃の チャンスを与えてしまい、懐に飛び込まれてしまう。 そして、リフレクト星人は胴体をZ字に切り裂かれた。 『フィニッシュ!』 『うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!』 リフレクト星人は断末魔を上げ、花火のように爆発四散した。 「やった! ウルティメイトフォースゼロの勝利だ!」 「やっぱりゼロは強いやぁ!」 刺客の宇宙人が全て倒されると、子供たちを始めとして、トリスタニアの人々が歓喜の声を上げた。 それを受けながら、ミラーナイトらがゼロに呼びかける。 『ゼロ、ハルナを探してるところだったのでしょう。早く彼女を見つけてあげて下さい』 『他に敵はいないようだが、伏兵が潜んでいるかもしれない。側にいた方がいいだろう』 『また敵が出たら、いつでも呼んでくれよ! じゃないと退屈だしな!』 『ああ、分かった。ありがとな、お前ら!』 仲間三人が空へ飛び立つと、ゼロは縮小化し、才人の状態に戻っていった。 ゼロから戻った才人は、すぐに春奈と、彼女を探しに行ったルイズたちの捜索に戻った。 「と言っても、春奈たちはどこなんだろうな? シルフィードが飛んでたら、目立っていいんだけど」 戦いが終わったことで、街には人の波が戻ってきた。それに呑まれないように、裏通りを選んで走る。 しかし春奈たちの居場所に見当がつかないので、実際には右往左往していた。 と、そんなところに、噂したばかりのシルフィードと、跨っているタバサとキュルケが近くに飛んできた。 「ダーリーン! ハルナって言ったかしら? その娘を見つけたわよー!」 「本当か!? どこだ、案内してくれ!」 「ついてきて」 タバサの指示通り、才人はシルフィードの後を追いかけていく。そしてたどり着いたのは、 大きな劇場前だ。 「ここって確か、劇場? こんなとこに春奈が……」 つぶやいた才人の目に、早速春奈とルイズ、シエスタの後ろ姿が映る。 「わ、私の大切なバッグなんです!」 先頭に立つ春奈が、見知らぬ女性相手に必死に訴えていた。その女性の手には、日本で 一般的に使用されている通学鞄が握られている。 「何だか穏やかじゃない物言いね。まるで、わたしがこのバッグを奪ったみたいじゃない?」 だが、相手の女性は春奈の訴えを退けようとしているようだった。才人は、女性の容姿をよく確認する。 短い金髪の、顔立ちが整ったかなりの美女だ。だがそれ以上に目を引く部分が、頭頂部に存在する。 その女性は、髪の間から猫のような耳を生やしていたのだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9383.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十五話「バルキー大逆襲」 宇宙海人バルキー星人 スクラップ幽霊船バラックシップ 深海怪獣グビラ 深海竜ディプラス 飛魚怪獣フライグラー 登場 柱に縛りつけられたまま、ルイズはバルキー星人に向かって叫んだ。 「あんたはあの時の……真っ黒鉄仮面ッ!」 『おいこらぁッ! 何だその言い草はぁ! 口の悪いガールだぜぇーッ!』 みょうちくりんな仇名でよばれたバルキー星人が憤慨した。 「そんなことはどうだっていいのよ! それよりあんた、今更出てきて何の用よ!」 ルイズが詰問すると、バルキー星人はビシッと指を突き立てて答えた。 『あの時のラストに言っただろう! 次会う時は、海の怪獣を見せてやると! その準備が 整ったから、約束通りに見せに来たのさぁッ!』 「そんな約束してないわよ! 迷惑よ、帰りなさいッ!」 『やだねーッ!』 ルイズの言いつけをはねのけ、バルキー星人は勝手にまくし立て始めた。 『最近異常にホットな日が続いてただろう? 海はミーの得意フィールド! そこにおびき寄せる ために、ミーが気温をコントロールしてたのさ! 人間はあっつくなると海に来たがるものだからな!』 「あッ! あれあんたの罠だったの!」 『そしてのこのこと海にやってきたお前たちをこのバラックシップの中に捕らえ、ウルトラマン ゼロたちをおびき寄せてミーの海の怪獣たちで始末する! これがミーのグレートな作戦さぁ!』 自慢するバルキー星人に言い返すルイズ。 「何がグレートな作戦よ! 頭おかしいんじゃないの!?」 『ユーが言うんじゃねぇよ! 何だその格好! 露出狂かッ!』 バルキー星人の言う通り、ルイズたちはオスマンが持ってきた、露出の多い水着の格好であった。 まさかこんなことになるとは思っていなかったので。 「これはその……色々あったのよ!」 『ふぅん? とにかく、バラックシップはミーが改造して至るところトラップだらけさ! お前らを助けるために乗り込んできた奴を蜂の巣にしてやるぜー!』 「くッ、卑怯よ! 男なら正々堂々と戦いなさい!」 『知ったこっちゃねぇなー! まぁせいぜい活きのいい感じに助け求めて、餌として役立って くれよぉ! ハハハハハハ!』 バルキー星人はそれだけ言い残して、煙とともにこの場から消えていった。 「あッ、こら! 待ちなさいよー!」 身動きが取れないので足をばたつかせるルイズ。それをキュルケがなだめた。 「落ち着きなさいルイズ。ジタバタしても、体力を消耗するだけよ」 「けど……!」 「悔しいけれど、今のあたしたちにはどうすることも出来ないわ。このロープもギュッと 締まってて全然緩まないし、タバサの杖も取り上げられちゃったし……」 キュルケの言う通り、今のルイズたちは文字通り手も足も出ない状態だ。 「あたしたちの命運は、ウルティメイトフォースゼロやサイトたちに託すしかないわ……」 「……」 達観しているキュルケとは違い、ルイズは己の不甲斐なさにキュッと下唇を噛み締めた。 その頃砂浜では、才人たちが遠見の魔法で海に浮かんだままのバラックシップを監視していた。 「うーむ、今のところは動きを見せないか……。モンモランシーはあの幽霊船の中に引きずり 込まれてしまったのは間違いないんだね?」 「ああ。そこはしっかり確認したよ」 ギーシュの問いかけにマリコルヌが答えると、才人がやや焦った様子で発した。 「今頃ルイズたちはどんな目に遭ってるか……。どうにかあれに乗り込めないか!?」 「しかしサイト、あの幽霊船から突き出てるでかい大砲を見たまえよ」 ギーシュがバラックシップの無数の大砲を指し示した。 「とんでもない数だ。船や『フライ』でのこのこ近づこうものなら、あっという間に消し炭に されてしまうよ。もっと速く飛べるような乗り物でもない限り、無謀すぎる」 「そんなのがどこに……。オストラント号を呼んでる時間なんてないし……」 才人がそう言ったところ、上からブワッと風圧が彼らの身体に掛かった。 「うわッ!」 「きゅいきゅい!」 「パムー!」 見上げると、才人たちの目の前にシルフィードが降下してきた。頭の上にはハネジローが 乗っている。 「シルフィード! そうか、タバサの危機を知ってここまで……!」 シルフィードは主人と使い魔の視界のリンクにより、学院を飛び立って駆けつけてくれたのだ。 ギーシュは喜びの声を上げる。 「風竜の飛行速度と旋回能力なら、砲撃もかわせるぞ!」 うなずいた才人がシルフィードの背の上に飛び乗る。 「あんまり重量を増やしたらシルフィードのスピードが落ちるから、俺一人で行く。みんなは ここで帰りを待っててくれ」 「頼んだぞ、サイト!」 「いつもすまんな、サイトくん。くれぐれも気をつけてくれたまえ」 才人を信頼して託すギーシュとオスマン。そこにレイナールが四本の杖を持って走ってきた。 「ルイズたちの杖だ。宿から取って来たんだ。彼女たちに渡してくれ」 「ありがとう」 才人が杖を受け取ると、シルフィードが翼を羽ばたかせて離陸した。 「よぉし、行くぜシルフィード!」 「きゅいー!」 シルフィードは才人の呼びかけに力強く応じ、バラックシップへ目掛け一直線に加速していった。 才人たちの接近によってバラックシップが早速動きを見せた。大砲がうなりを立ててシルフィードの 方角へ向けられ、一気に砲弾を撃ってきた! しかしシルフィードはひるまず、身体を左右に振って砲弾の間を的確にすり抜けながら 前進していく。期待通りの飛行能力に、才人はぐっと手を握った。 「いいぞ! そのまま船の甲板まで頼む!」 が、ふと海面を見下ろしたハネジローが鋭く警戒の鳴き声を出した。 「パムー!」 「!?」 咄嗟に身をひねらせるシルフィード。それにより、海面を突き破った高速回転する巨大ドリルを 回避することが出来た。危うく串刺しにされるところだった。 「えッ!? ドリル!?」 ギョッとする才人。そしてドリルの下から、巨大生物の本体がせり上がってきた。 「グビャ――――――――!」 「あいつは……深海怪獣グビラ! 他にも怪獣がいたのか……!」 鼻先にドリルを備えた魚型の怪獣の出現に目を見張る才人。しかしそれで終わりではなかった。 「キャア――――――――!」 「クアァ――――――!」 更にコブラのような扇状の鱗を生やしたウミヘビ型怪獣と、羽を持った魚型怪獣が海中より 飛び出してきた。深海竜ディプラスと飛魚怪獣フライグラーだ! バルキー星人の連れてきた 海の怪獣軍団である。 「くッ、まだこんなにも怪獣が……! こいつはやばいぜ……!」 才人も苦悶の表情を浮かべた。ディプラスは触覚から電撃光線を飛ばしてきて、フライグラーは 空中に飛び上がり、シルフィードを追いかけてきた。さすがにこれだけの敵に囲まれては、シルフィードでも かわし切ることは出来ない。才人、絶体絶命の危機! しかしこんな時に助けてくれる力強い仲間たちがいるのだ。ウルティメイトフォースゼロだ! 『はぁぁッ!』 『うらぁぁぁッ!』 『ジャンファイト!』 空の彼方よりこの場に駆けつけたミラーナイト、グレンファイヤー、ジャンボットがそれぞれ グビラ、ディプラス、フライグラーを抑え込み、押し飛ばして才人たちから遠ざけた。 「みんな!」 『怪獣は私たちにお任せを! サイトはルイズたちを救出して下さい!』 ミラーナイトがバラックシップの才人たちへの砲撃をディフェンスミラーでさえぎって、 そう呼びかけた。 「ありがとう! 頼んだぜ、みんな!」 再び前進を開始したシルフィード。ミラーナイトとグレンファイヤーはグビラとディプラスを 押し込んで海中に潜っていき、ジャンボットはジャンバードに変形して陸へ逃げるフライグラーを 追いかけていった。 そしてシルフィードはとうとうバラックシップにまで到着。バラックシップの一部を成している 大型船の傾いた甲板に着地すると、飛び降りた才人がデルフリンガーを抜いてシルフィードに告げた。 「少し危険だけど、ここで待っててくれ。ルイズたちを乗せたら、すぐに飛び上がるんだぞ!」 シルフィードがコクコクうなずくと、才人はバラックシップの船内に向かって潜り込んでいった。 ルイズたちが囚われているバラックシップのコンピューター室を探して、細い通路を走っていく 才人。しかし通路の至るところにはバルキー星人の仕掛けた自動ビームガンの罠があり、才人が 踏み込んできた瞬間に銃口を向けて光線の歓迎を仕掛けてきた。 「おっとッ!」 だが幾度もの戦いを乗り越えて鍛え抜かれた才人だ。ガンダールヴの敏捷さで光線を跳び越え、 くぐり抜け、デルフリンガーの刃で反射して一発ももらわない。 そして光線の雨に恐れずに踏み込んで、ビームガンを片っ端から叩き壊しながら進んでいく。 「相棒、娘っ子たちはどうやら次の角を左に曲がった先みたいだぜ!」 生き物の気配を探ったデルフリンガーが才人に教えた。 「分かった! 待ってろよみんな、今行くぜッ!」 ルイズたちが近いと知った才人はスピードを上げ、通路の角を曲がった先の扉をぶち開けた。 「どっせいッ!」 「サイトぉ!」 一番にルイズが才人の名を叫んだ。ルイズたちに怪我がないことが分かって、才人は一瞬ほっとする。 柱に縛られたままのルイズは才人に警告した。 「サイト、気をつけて! 罠よ!」 「分かってるさ……!」 『はぁーッ!』 次の瞬間に、テレポートしてきたバルキー星人が速攻で空中から剣を振り下ろしてきた。 才人はすかさずデルフリンガーを盾にして、バルキー星人を押し返す。 着地したバルキー星人が間合いを測りながら告げた。 『待ってたぜぇ! ユーだけはこの手で串刺しにしてやるッ!』 「へッ、負けるかよ! 俺だって、お前との決着をつけてやるぜ!」 才人は勇んで挑発を返したが、バルキー星人は不敵な笑みを見せた。 『これでもそんな口が叩けるかなぁー!?』 その指が鳴らされると、コンピューター室の天井や壁からビームガンが多数現れ、才人に 光線を連射してきた。 「くッ……!?」 危ないところで身を翻して光線をかわした才人に、バルキー星人が飛びかかってくる。 『シャアッ!』 「うおッ!」 バルキー星人の剣先が才人の頬をかすめ、切れた皮膚から血が垂れた。さすがに、光線の雨から 逃れながらバルキー星人の相手をするのは苦しすぎる。かと言ってゼロに変身している暇はない。 「汚すぎるわ……!」 憤るルイズたちだが、拘束は緩まないので見ているだけしか出来ない。それがますます悔しかった。 『ハッハー! 今度こそミーの勝ちだぁーッ!』 光線の猛撃を防ぐことで手一杯な才人の隙を窺い、バルキー星人が剣を振り上げ襲いかかろうとする! 「パムー!」 だがその瞬間に、小動物が飛びかかってバルキー星人の顔面に張りついた。 『おわぁーッ!? な、何事だぁー! 前が見えねぇーッ!』 「ハネジロー!」 視界をふさがれて狼狽えるバルキー星人。才人を助けたのはハネジローだった。小さな身体を 活かして、隠れながらついてきていたのだ。 才人はこの機を逃さず、光線を跳び越えてルイズたちを縛るケーブルを切断して六人を救出した。 同時に懐から出した杖を手渡す。 「ほら、お前たちの杖だ!」 「ありがとう、サイト!」 タバサも床に打ち捨てられてあった自身の杖を拾い上げ、五人が素早く呪文を唱えて魔法攻撃を 繰り出し、ビームガンを全て破壊した。 『うげぇッ!?』 ハネジローを振り払ったバルキー星人がこれを目撃してたじろいだ。 才人はルイズたちとともに得物を向ける。 「さぁ、観念しろバルキー星人!」 一気に劣勢に転じたバルキー星人だったが、降参はしなかった。 『シーット! まだだッ! まだ最後の切り札が残ってるぜぇーッ!』 再び煙を発してこの場から消えるバルキー星人。才人が即座に飛びかかったのだが、一歩遅く 逃げられてしまった。 やむなく才人は、ルイズたちの方へ振り返って言いつけた。 「外でシルフィードが待ってる! それに乗って脱出しろ! 俺はこの船をどうにかする!」 「サイトはどうやって逃げるの!?」 事情を知らないティファニアとモンモランシーが才人の身を案じた。才人は安心させるように 笑いかける。 「俺なら大丈夫さ。それより早く! バルキー星人が次にどんなことをしてくるか分からねぇ!」 「でも……!」 「サイトを信じてあげて! さぁ、急ぐわよ!」 ルイズたちがティファニアとモンモランシーの手を引き、ハネジローの先導の下にコンピューター 室から甲板に向かって駆け出していった。 ルイズたちがこの場から脱すると、才人は素早くウルトラゼロアイを出して、顔面に装着した。 「デュワッ!」 そしてルイズたちを乗せたシルフィードが飛び立ってバラックシップから離れると、 ウルトラマンゼロがバラックシップを内側から突き破って空に飛び上がった! 「セアァァ―――――ッ!」 内側から破壊されたバラックシップは爆発の連鎖を起こし、木端微塵に吹っ飛んだ。 バラックシップを破壊したゼロはシルフィードとともに、陸地へと向かって飛んでいった。 海底ではミラーナイトとグレンファイヤーが、グビラとディプラス相手に激しく戦っていた。 『ミラーナイフ!』 ミラーナイトがこちらに猛然と泳いで迫ってくるグビラにミラーナイフを繰り出す。 「グビャ――――――――!」 しかしグビラのドリルは光刃を容易く弾き返した。更にミラーナイトの展開したディフェンス ミラーをも簡単に突き破って、ミラーナイトを突き飛ばす。 『ぐはッ! 恐ろしい威力だ……!』 グビラの一番の武器たるドリルの強力さに舌を巻くミラーナイト。グビラはターンして 再びミラーナイトに迫ってきた。 「グビャ――――――――!」 『……!』 それに対しミラーナイトは、下手に動じずにどっしり腰を構えてグビラを見据える。そして 彼我の距離がギリギリまで縮まったその時、 『はぁぁッ!』 ジャンプしてグビラの軌道から逃れるとともに、すれ違いざまに鋭いチョップをドリルに 叩きつけた。 横向きの力が加えられたドリルは根本から綺麗に折られた! 「グビャ――――――――!?」 グビラはドリルを折られると同時に気力まで折られ、あたふたと慌てるばかりだった。 振り返ったミラーナイトが不敵に告げる。 『ですが、一芸に頼り過ぎましたね』 そして腕を水平に薙いで、とどめの攻撃を放つ。 『シルバークロス!』 十字の刃がグビラを貫通し、グビラは海中で爆散して水泡と変わった。 グレンファイヤーはディプラスの顔面を狙って鉄拳をお見舞いする。 『どおらぁッ!』 「キャア――――――――!」 パンチはクリーンヒットしたが、細長い身体をゆらゆらとうごめかすディプラスは衝撃を逃がし、 さほど効いている様子を見せなかった。 『くっそー、掴みどころのねぇ奴だぜ!』 「キャア――――――――!」 更にディプラスは素早くグレンファイヤーの身体に巻きついて、彼をギリギリと締め上げる。 「キャア――――――――!」 『何! くっそ、こんぐらいでこの俺が参るか……!』 耐えるグレンファイヤーだが、ディプラスはそこに触覚からの電撃光線まで浴びせた。 「キャア――――――――!」 『ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』 この同時攻撃にはタフなグレンファイヤーもたまらず悲鳴を発した。 ……しかし、それでも彼は立っていた! 『面白れぇ……このまま耐久勝負といこうじゃねぇか! ファイヤァァァ―――――――!!』 グレンファイヤーは巻きつかれたままファイヤーコアを滾らせ、己の体温を急激に上げていった! 「キャア――――――――!?」 今度はディプラスの方がたまらなくなって離れようとしたが、細い胴体をグレンファイヤーが 鷲掴みにして逃がさなかった。 『おっとぉ! 掴みどころはちゃんとあったなぁッ!』 そのままどんどんと加熱するグレンファイヤー。やがて熱がピークに達すると、ディプラスの 耐久が限界に来て、瞬時に爆発を起こした。 『へッ、どんなもんだ!』 ディプラスを撃破したグレンファイヤーが高々と見得を切った。 高空では、ジャンバードとフライグラーが熾烈なドッグファイトを展開していた。 『ビームエメラルド!』 「クアァ――――――!」 ジャンバードの銃身から放たれたビームエメラルドと、フライグラーが口から吐き出した 水流波が衝突。相殺され、ジャンバードとフライグラーは羽をぶつけ合ってすれ違う。 『むぅ、やるものだ……!』 うなるジャンバード。しかし彼の電子頭脳はフライグラーの弱点を見破ったのだった。 「クアァ――――――!」 反転したフライグラーがジャンバードに再度水流波を繰り出そうとする。……その直前に、 首元のエラが開かれて空気を大量に吸引する。 『今だッ! ジャンミサイル!』 そのタイミングを狙って、ジャンバードは一発のミサイルを発射。ミサイルは横から回り込んで、 フライグラーのエラに爆撃を加えた。 「クアァ――――――!?」 フライグラーは水流波を放つために、エラから空気を吸引して水分を蓄える。だがそのエラが 弱点でもあったのだ。 バランスを崩したフライグラーは地表にまっさかさまに落下していくが、体勢を立て直して 着地に成功した。 しかしそこに変形したジャンボットが急速に飛びかかってくる! 『ジャンブレード!』 降下の勢いを乗せたジャンブレードが振り下ろされ、フライグラーの身体を袈裟に切り裂いた。 フライグラーは声もなく爆破される。 フライグラーを討ち取ったジャンボットはもう一度飛び上がって、砂浜の方向へ飛んでいった。 ゼロ、ミラーナイト、グレンファイヤー、ジャンボットが順番に波打ち際に着水。すると それを見計らったかのように、バルキー星人が彼らの面前に出現した。 『やるもんだなぁ、ウルティメイトフォースゼロ! あれだけの用意を、あっさりと打ち破りやがって!』 『バルキー星人、いい加減に観念しな! 俺たちに挑もうなんて二万年早かったんだよ!』 人指し指を向けて宣告するゼロ。だがバルキー星人は失笑した。 『言ったよな? まだ切り札があるってな! 今からそれを見せてやるぜぇーッ!』 バルキー星人が指を鳴らすと、海の方から巨大な気配が接近してくるのにゼロたちは気づいて、 咄嗟に振り返った。 『まだ怪獣がいたってのか!』 戦闘態勢を取り直す四人。そして、海面を破って彼らの前に現れた巨大怪獣の正体とは――。 「グアァ――――――――!」 青いゴツゴツとした体表に、頭部に三本の鋭い角、背筋には魚類のもののようなヒレ、 そして顔面に爛々と燃えるように輝く真っ赤な眼を持った怪獣。ゼロたちはこの怪獣が 前に現れると、思わず身震いをした。 『な、何だあの怪獣は……!? 尋常じゃねぇ闇の力をその身に宿してるぜ……!』 四人はバルキー星人が呼び出したのが、ただの怪獣ではないことを察した。野生に生息している 通常の生態の怪獣ではあり得ないような、暗黒の波動を全身から発しているのだ! 『ハーハハハハハハ! サメクジラだと思った? 違うんだなぁこれがーッ!』 バルキー星人が愉快そうに高笑いした。 『ミーもこの星の海底でこいつを見つけた時はブルっちまったぜ! 何とも濃厚な闇のパワーを 持ってやがるからな! それで確信したねッ! こいつなら、お前たちウルティメイトフォースゼロも ぶっ倒せるってなぁーッ!』 バルキー星人が探し出してきた切り札の怪獣――いや、根源破滅海神ガクゾムが、ウルティメイト フォースゼロに対して殺意を向けてきた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9163.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第五十二話「ある教師の墓標」 異次元人ヤプール人 異次元超人カブトザキラー 火炎超獣ファイヤーモンス ミサイル超獣ベロクロン 一角超獣バキシム 蛾超獣ドラゴリー 登場 『うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 「ゼロぉッ!!」 カブトザキラーの放ったM87光線の引き起こした爆発に呑まれたゼロ。絶叫するルイズ。 一方、攻撃を指示したヤプールはけたたましく高笑いする。 『うわはははははははぁ――――――――! 見たか、カブトザキラーの威力を! ウルトラマンゼロ、 今度ばかりは貴様の最期だッ!』 黒煙の中に姿が消えたゼロはどうなったのか。まさか……最悪の想像をしてルイズたちは戦慄する。 『……っはぁッ!』 しかし、最悪の想像は破られた。煙が晴れると、うずくまっていたゼロが雄々しく立ち上がった。 カラータイマーが赤く点滅しているが、まだ倒れてはいない。 ヤプールはゼロを仕留め切れなかったことに舌打ちする。 『ちッ、ウルトラ戦士は本当にしぶといものだな』 『テメェらに言われたくはねぇな、ヤプール!』 ゼロの戦意は折れていない。ゼロスラッガーを両手に握り締めると、カブトザキラーに 猛然と斬りかかっていく。 『うおおおおぉぉぉぉぉッ!』 『メビュームナイトブレード!』 対するカブトザキラーは右腕より濁った色の光剣を伸ばし、スラッガーの斬撃を受け止める。 『せぇぇぇぇいッ!』 ゼロは連続で斬りつける技、ゼロスラッガーアタックで攻めるも、カブトザキラーは巧みな 剣さばきで全ての斬撃を防ぎ切った。更に左手の巨大ハサミでゼロの胸を切り上げて、カウンターを食らわせる。 『ぐはぁぁぁッ!』 ハサミの一撃は強力で、ゼロは吹っ飛ばされて大地を転がった。カブトザキラーは追撃しようと歩み寄るが、 「シェアッ!」 ゼロが倒れたままでビームゼロスパイクを発射。カブトザキラーの胸部のクリスタルに直撃し、 スパークを起こしたカブトザキラーはその場で片膝を突く。 『ぐ、ぐぐ……!』 どうにか一撃を与えることは出来たが、ゼロのダメージも色濃い。起き上がるのも必死な状態になっていた。 苦戦しているのはゼロだけではなかった。他の三人も超獣の絶大な破壊力の前に押されつつあった。 「グロオオオオオオオオ!」 『うぅッ……!』 ベロクロンが口から高熱火炎を吐き出して、ミラーナイトを熱で苦しめる。追い詰められる ミラーナイトの姿が突然割れた。鏡に映った虚像であった。 「グロオオオオオオオオ!」 十八番である鏡のトリックによる奇襲を仕掛けようとしたミラーナイトだったが、ベロクロンは 全身の突起からミサイルを大量に、360度全てに発射。自身を取り囲んだ鏡を全て破壊する。 『うわぁぁぁッ!』 ミラーナイト本体もまたミサイルの爆撃を食らい、地面に投げ出された。すぐに起き上がるが、 ベロクロンの投げつけた光輪で縛られて身動きを取れなくされる。 「グロオオオオオオオオ!」 『あああああああッ!』 ベロクロンは指先からのレーザーで追撃。ミラーナイトはまたも横転した。様々な敵を破った ミラーナイトの鏡の術だが、ベロクロンには通用しないのだった。 「ギョロロロロロロロロ!」 『うおおぉぉぉッ!』 ジャンボットはドラゴリーのぶちかましを食らって倒された。ドラゴリーは超獣の中でも 随一の怪力の持ち主であり、鋼鉄のロボットであるジャンボットでもその打撃を受け切ることは出来なかった。 「ギョロロロロロロロロ!」 ドラゴリーは仰向けに倒れたジャンボットの顔面を鷲掴みにして、首をもぎ取ろうとする。 『ぐわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』 首がメリメリと嫌な音を立てる。ドラゴリーの握力はロボットの彼でも耐え難いほどであった。 ジャンボットはたまらず絶叫を上げた。 「ア――――――――オウ!」 ファイヤーモンスは口からロケット弾を発射し、グレンファイヤーの背面に浴びせかける。 更に反対側からは、バキシムが鼻先と両手よりバルカン砲を連射する。 「ギギャアアアアアアアア!」 『うおぉぉあああぁぁぁぁッ!』 挟み撃ちにされ集中砲火を食らうグレンファイヤーが悲鳴を上げる。と、ファイヤーモンスは 不意に攻撃を途絶える。 「ア――――――――オウ!」 そしてあろうことか、学院の方に歩み寄り始めた! 『まっ、待てこの野郎ッ!』 今は他にファイヤーモンスの進撃を止める者がいない。グレンファイヤーはファイヤーモンスへ 飛び掛かろうとするが、 「ギギャアアアアアアアア!」 そこに身を屈めたバキシムが、頭頂部の角を発射! 『ぐああぁぁぁッ!』 直撃と爆発を食らったグレンファイヤーは撃ち落とされてバッタリと倒れた。 「ギギャアアアアアアアア!」 バキシムは倒れた彼の上に馬乗りになって、トゲの生えた平手で激しく殴りつける。 『うがぁッ! く、くそぅッ!』 グレンファイヤーが止められている内に、ファイヤーモンスが学院の人々に襲い掛かってしまう! 「ア――――――――オウ!」 「い、いやぁぁぁぁッ! 怪獣が来るぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」 中庭で消火活動に当たっていた女子生徒が、ファイヤーモンスに見下ろされたことで恐怖の金切り声を発した。 「皆の衆、学院の中に退避するのじゃ! 早く、早くッ!」 オスマンが急いで呼びかけ、生徒たちを塔の中へ誘導する。しかし、 「アニエス、立ちなさいよ! 逃げないと殺されるわよ!?」 「あ……あぁ……!」 アニエスが未だ腰を抜かしたまま、立ち上がれないでいる。ルイズが何度呼びかけようと、 正気に戻らない。ファイヤーモンスはもうすぐそこまで迫っている。 「もう、しょうがないわね! タバサ!」 痺れを切らしたキュルケとタバサがレビテーションを掛け、アニエスを運搬しようとする。 だが判断が少しばかり遅かった。 「ア――――――――オウ!」 ファイヤーモンスが四人に向けて高熱火炎を吐き出したのだ。 「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 ギリギリ直撃は受けなかったが、爆風によってルイズ、キュルケ、タバサが吹き飛ばされた。 ドテッと投げ出されたアニエスを、ファイヤーモンスが睨む。 「ア――――――――オウ!」 「ひぃッ……!」 アニエスは引きつけを起こしてガタガタ震えるばかり。過去のトラウマを呼び起こされた今の彼女は、 無力な子供同然となってしまっている。 ファイヤーモンスはそんな彼女を容赦なく焼き殺そうと、口を開く……! 「アニエスくーんッ!」 そこに飛び込んできたのは、コルベール。アニエスを背にしてかばい、勇敢にファイヤーモンスに立ちはだかる。 「はッ……!?」 コルベールにかばわれたことで、アニエスはようやく正気に戻った。ダングルテールの虐殺を 引き起こした部隊の隊長に守られているという事実が、彼女の意識をはっきりとさせた。 「やめろッ! わたしの故郷を焼いた貴様に助けられたくはない! わたしの盾になどなるなッ!」 「わたしに助けられたくないのなら、早く逃げなさい!」 アニエスが叫ぶも、コルベールはその場を動こうとしない。 「くッ、何故こんな真似をする! 罪滅ぼしのつもりか!? わたしをかばって、許しを得ようとでもいうのか!」 詰問すると、コルベールはファイヤーモンスから目を離さないまま苦笑した。 「そうかもしれない。だが……きみに死んでほしくないという気持ちだけは、本物のつもりだよ!」 「……!」 それを聞いた時、コルベールの背中を見つめたアニエスは、古い記憶が呼び覚まされた。 ダングルテールが焼き払われた時、幼い自分は瀕死の状態だったが、誰かに背負われて 逃がされたことで生き延びた。その時の背中が……今目の前にあるものと同じだと、本能的に理解をした。 「くぅッ……!」 アニエスの足に力が入り、その場から逃げ出そうとする。 しかしその行動は、わずかに遅かった。 「ア――――――――オウ!」 とうとうファイヤーモンスが地獄の業火を吐き出した! このままではアニエスが焼き殺されてしまう! 「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」 コルベールは残った精神力を全て振り絞って、杖から炎を発した。ファイヤーモンスの火炎を 押し戻して時間を稼ごうというのだ。 そのお陰でアニエスはぎりぎり退避が間に合ったが……コルベールの炎は押し返されて、 彼は業火に呑まれた。 「――ッ!」 コルベールの叫び声が、炎のうねりにかき消される。 「先せぇーいッ!!」 ルイズが、キュルケが、タバサが、オスマンが……アニエスが、唖然となった。 『し、しまったッ!! ちくしょぉうッ!』 ようやくバキシムを突き飛ばしたグレンファイヤーだったが、コルベールが火炎に呑まれたところを 目の当たりにしてしまう。ギリギリと拳を握り締め、怒りの炎を焦がした。 『テメェェェーッ! 許さねぇぞぉぉぉぉぉッ!』 「ア――――――――オウ!」 グレンファイヤーは更なる犠牲者を出そうとしていたファイヤーモンスに背後から掴みかかり、 学院の前から投げ飛ばした。 ファイヤーモンスはすぐに起き上がってグレンファイヤーに火炎攻撃を繰り出すが、 彼は鍛え抜かれた胸板でそれを受け止める。 『何が究極の炎だ! こんなもん、俺の炎でぶっ飛ばしてやらぁーッ!』 グレンファイヤーは全身を燃え上がらせてファイヤーモンスにまっすぐ突撃。炎を纏った 体当たりを食らったファイヤーモンスが赤熱する。 「ア――――――――オウ!」 瞬く間に臨界点を超えたファイヤーモンスは木端微塵に爆散した。一体化したメンヌヴィルも 当然爆死。あまりに呆気ない最期であった。 グレンファイヤーの逆転に当てられたかのように、他のメンバーも猛反撃を行う。 「グロオオオオオオオオ!」 『はぁッ!』 ベロクロンがミサイルを発射しようと口を開けた瞬間に、ミラーナイトがすかさずミラーナイフを放った。 光刃はベロクロンの口内に吸い込まれる。 「グロオオオオオオオオ!!」 その衝撃で体内のミサイルが誘爆。ベロクロンは全身から黒い煙を噴いて立ち尽くした。 『シルバークロス!』 そしてミラーナイトが必殺攻撃を繰り出し、ベロクロンは十字に切断されて跡形もなく爆裂した。 『ビームエメラルド!』 「ギョロロロロロロロロ!」 ドラゴリーに頭部をもがれそうになっていたジャンボットは、一瞬の隙を突いてビームエメラルドを発射。 至近距離から光線を食らったドラゴリーが大きくひるむ。 『よくもいたいけな命を……許せん! ジャンナックル!』 コルベールの犠牲に燃えるジャンボットが飛ばしたパンチは普段以上の勢いで、ドラゴリーの脇腹を ぶち抜いて風穴を開けた。 「ギョロロロロロロロロ……!」 『ジャンブレード!』 フラフラと足元がおぼつかなくなったドラゴリーに、ジャンボットが剣をすれ違いざまに 水平に振るう。それにより、ドラゴリーは逆に首を切り落とされた。 『これで終わりだッ!』 そしてとどめにビームエメラルド。ドラゴリーは徹底的にやられ、粉微塵にこの世から消し飛んだ。 『何だとぉ! くそ、不甲斐ない超獣どもめが!』 立て続けに部下がやられたヤプールは激昂。カブトザキラーに命令を下す。 『こうなれば、ウルトラダイナマイトで辺り一面を消し飛ばしてくれるッ!』 ヤプールの命により、カブトザキラーの全身が赤熱し始めた。自爆してこの場の全員を 抹殺しようというつもりか。 『そんなことさせるかぁぁぁぁぁッ!』 しかし、それをみすみす許すゼロではない。真正面から超速で踏み込み、正拳突きでカブトザキラーを殴り飛ばす。 『うおおおおぉぉぉぉぉぉッ!』 更にゼロツインソード・デルフリンガースペシャルを作り出し、カブトザキラーへと駆け出していく! カブトザキラーはそれを迎え撃とうと、ハサミを大きく振るう。ゼロツインソードDSと殺人ハサミが交差した。 『……!』 カブトザキラーの背後へと走り抜けたゼロ。その足が崩れ、片膝を突く。 『ぐッ……!』 一方で、カブトザキラーは――頭から股にかけて一本の線が走り、身体が左右に真っ二つに裂けた。 バックリと割れたカブトザキラーの残骸が爆発を起こし、超人ロボットが粉々に吹っ飛んだ。 『おのれぇぇぇぇぇ! ここまでかッ!』 切り札のカブトザキラーも失ったヤプールは激怒するも、最早勝ち目がないことは理解していた。 そのため、唯一生き残っているバキシムに指示を飛ばす。 『バキシム、戻れぃッ! ウルティメイトフォースゼロめ、この礼は近い内にたっぷりしてやるぞぉッ!』 「ギギャアアアアアアアア!」 またしても空間が割れ、バキシムがその中へ引っ込もうとする。 『待ちやがれぇッ!』 グレンファイヤーが火炎弾を飛ばしたが、バキシムが退散する方が早かった。割れた空間が閉じ、 火炎弾は空振りしてしまう。 『くそぉッ……!』 強く悔しがるグレンファイヤー。ルイズは、バキシムの消えていった何もない空間を呆然と見つめた。 以前ゼロたちは、異次元人ヤプールにはこちらから手出しすることが出来ないと語っていたが、 ルイズはそれに疑問を持っていた。様々な超能力を持つゼロならば、敵がどこにいようと追撃が 出来るのではないか、と。 しかしその考えは、たった今砕かれた。空を割るなんて非常識にも程がある現象を引き起こす相手を、 どうやれば追跡することが出来るのか見当もつかない。 ヤプール人。自分たちが敵対している者たちの黒幕の脅威、その片鱗を見せつけられた。 『ぐぅぅッ……!』 カブトザキラーを打倒したゼロがその場に片膝を突く。今回ばかりは、限界ぎりぎりまで エネルギーを消耗したのだ。それでも残った力を全て振り絞り、ウルトラ念力で学院を取り巻く 火災を鎮火すると、巨体が縮んで才人の姿に戻っていく。もう飛んで帰る力も残らなかったのだった。 ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーは空を飛んで帰還していく。戦いには勝利した彼らだが、 その面持ちは暗かった。戦いの犠牲者が出てしまったからだ……。 「うぅ……」 「サイト!」 才人が疲弊し切った身体に鞭打って中庭に戻ると、ルイズが慌てて駆け寄った。才人は彼女に問いかける。 「こ、コルベール先生は……?」 「……」 悲痛な表情を浮かべたルイズの見やった先に、コルベールは倒れていた。 全身大火傷を負っている。モンモランシーやタバサを始めとしたメイジが必死に治癒魔法を 掛けているが……効果が出ているようには見えなかった。 その時、コルベールの前にアニエスがゆらりと幽鬼のように立った。握り締めた剣を彼に突きつける。 「ちょっと! なにしてるのよ!」 泡を食うキュルケやルイズらの怒号を無視し、アニエスがコルベールに問う。 「なぜ我が故郷を滅ぼした? 答えろ」 「やめて! 怪我してるのよ! 重傷なのよ! しゃべらせないで!」 モンモランシーが制止するが、アニエスは質問をやめない。 「答えろ!」 コルベールはかすれた声でつぶやく。 「……命令だった。疫病が発生したと告げられた……。焼かねば被害が広がると、そのように 告げられた。仕方なく焼いた」 「……それは嘘だ」 「ああ……気づくのが遅すぎた。要は“新教徒狩り”だったのだ。わたしは毎日罪の意識にさいなまれた。 あいつの……、メンヌヴィルの言ったとおりのことを、わたしはしたのだ。女も、子供も、見境なく焼いた。 許されることではない。忘れたことは、ただの一時とてなかった。わたしはそれで軍をやめた。二度と炎を……、 破壊のためには使うまいと誓った……」 「……それで貴様が手にかけた人が帰ってくると思うか?」 コルベールは首を横に振り……目を閉じて動かなくなった。 絶望する才人。もう、コルベールの命を助ける手立てはない。ゼロとグレンファイヤーは もう人間と一体化しているし、ミラーナイトは二次元人のハーフという特異な体質故、 二人と同じことは出来ない。コルベールの命は消えゆく一方だ……。 しかし、アニエスはコルベールめがけて剣を振り上げる。それを慌てて止めようとするルイズ、才人。 「アニエス、やめなさい! 先生はあなたを、身を挺して助けてくれたじゃないの!」 「アニエス! 不必要な復讐はしないって、誓ったんじゃないのかよ!」 だが、アニエスは狂乱して二人を振りほどく。 「黙れ! わたしはこの日のために生きてきたのだ! 二十年だ! 二十年もこの日を待っていたんだ!」 アニエスの瞳の中に垣間見えた、深すぎる憎悪の色に、才人が思わず怖気だった。アニエスは 数いる騎士の中でも特に高潔な人物なのに……憎しみは、これほどに人を変えてしまうものなのか。 呆然となった才人たちに代わり、コルベールの手首を握ったキュルケが彼をかばう。 「お願い、剣をおさめて。……もう死んだのよ」 そのひと言でアニエスは立ち尽くし……全身の力が抜けて膝をついた。 「わ、わたしは……わたしは……仇に二度も救われて……それも死んで……何のために、今日まで……!」 「……恨むな、とは言わないわ。でも、せめて祈ってあげて。確かにコルベール先生はあなたの 仇かもしれないけど……、今は恩人でしょう。彼は身体を張ってあなたを救ってくれたのよ」 苦しそうな声でキュルケが言った。アニエスは小刻みに震え、嗚咽を上げ続ける。 戦いに勝ったにも関わらず、誰の心にも暗い影が差し込んでいた。 波乱の夜が明けた。とうとう、才人とルイズがゼロ戦で出発する時が目前に迫っていた。 「……先生、俺とルイズは行きます……戦争をしに」 才人は学院の庭の片隅に設けた、質素な墓標に向けて告げた。 才人が作った、コルベールの墓だ。手作りで、とても人の墓とは思えない出来だが、才人は形だけでも コルベールを弔わないとどうしても気が済まなかった。 「……サイト、ゼロセンの中に、コルベール先生からの手紙があったわ」 才人の元へルイズが、手紙を片手に歩いてきた。 「手紙?」 「うん。読む?」 頷く才人。ルイズは手紙を広げて、ルーン文字の読めない才人に代わって朗読する。 コルベールからの手紙には、ゼロ戦を出来得る限り修理したこと、多分飛行に問題はないこと、 機銃の弾の量産は無理だったので代わりの兵器を搭載したことなどが記されていた。 ゼロ戦の説明書までついている。 そして最後に、コルベールはこんなことを綴っていた。 「サイトくん、きみに頼みごとがある。いや、変なことじゃない。頼みごとというのは、わたしの夢のことだ。 わたしの夢、それは、魔法でしかできないことを、誰でも使えるような技術に還元することだ。 いつしか誰もが使えるような立派な技術を開発することだ。 これは言うか言うまいか悩んだことだが、話しておこう。わたしはかつて、罪を犯した。 大きすぎる罪だ。その罪を贖おうと思って研究に打ち込んできたが……最近、思うように なったことがある。それは、罪を贖うことはできないということだ。どれほど、人の役に立とうと 考えてそれを実行しても……、わたしの罪は決して赦されることはない。決してない。 だからきみ、一つ約束してほしい。これからきみは困難な事態に多々直面することだろう。 戦争に行くんだ、人の死にたくさん触れねばならんだろう。 だが、慣れるな。人の“死”に慣れるな。それを当たり前だと思うな。思った瞬間、何かが壊れる。 わたしは、きみにわたしのようになってほしくはない。だから重ねてお願い申し上げる。戦に慣れるな。 殺し合いに慣れるな。“死”に慣れるな。 さて、最後になったが頼みごとだ。きみはいつか、わたしに別の世界からやってきたと言ったね。 その世界では、きみから預けられたような飛行機械が空を飛び、ハルケギニアとは比べものにならんほど 技術が発達してる。そういうことだったね? わたしはそれを見たいのだ。見て、是非とも研究に役立てたいのだ。だから、きみが帰るときが来た際……、 わたしも連れて行ってほしい。冗談ではない。本気だ。だから死ぬなよ。絶対に生きて帰ってこい。 じゃないと、わたしがきみの世界に行けなくなるからな」 朗読を聞き終わると、才人の頬をひと筋の涙が伝った。 「先生の馬鹿野郎……。先生が死んじゃったら、連れて行くことなんて無理じゃねぇか……」 ぐすっぐすっと鼻をすすり、嗚咽を上げる才人。ルイズは無言で彼を見つめる。 「先生……どうしてだよ。先生……」 静かに泣きじゃくる少年と、彼を見守る少女、そしてちっぽけな墓標を、天高く昇った日の光が照らしていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9318.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十六話「激ファイト!ゼロvsウルトラセブン」 妄想ウルトラセブン カプセル怪獣アギラ 登場 「な、何で声を掛けないのよッ! 一時間も!」 「ご、ごめん……」 ……週末の休日、俺はルイズとともに繁華街に来ていた。この前の帰り道での約束通り、 買い物の荷物持ちとしてルイズについて回るのだ。 しかし、リシュが「ルイルイとのデート!」なんてはやし立てるので、恥ずかしくなった俺は 約束の時間より一時間も早く待ち合わせ場所に到着。そしたら何とルイズも待ち合わせ場所にいたのだ。 これって、あいつも早く来てしまったということ? いやいや、都合よく考えたらまた 手痛いしっぺ返しを食らうパターンじゃ……と声を掛けるのを躊躇っていたら一時間が経過。 そしたらルイズがこのようにカンカンになってしまったのであった。こうなると分かって いたのなら、とっとと声掛けてりゃよかった……。 「でもお前、何で俺が一時間も声を掛けなかったって知ってんだ?」 「!?」 ふと尋ね返すと、ルイズは顔を赤くしてわたわたし出した。 「そ、そそ、それは! そんな気がしただけよ!」 えぇ? 「気がした」だけで、ピタリと言い当てられるものなのか? 実は最初から俺が いるのに気がついていたんじゃ……。でもそれだったら、向こうから呼びかけるはずだよな。 うーん、ルイズのやることはいまいち分からん。 「はぁ……。とりあえず、ごめん」 「もういいわ! 早くお店に入りましょ!」 俺が頭を下げたところで、ルイズはこの話を打ち切って買い物の開始を促した。 「いいけど。まず、何買うんだ? なるべく軽いものからがいいんだけど」 持って歩かないといけないし、と聞くと、ルイズは何故かまたも頬を赤らめる。 「……ミ、ミスコンに必要なものよ」 「ミスコンに必要なもの? 何だ? もったいぶってないで教えろよ」 催促したら、ルイズは俺にだけ聞こえるような非常に小さな声で言った。 「み、水着よ」 「水着!?」 「大きな声出さないでよ! 水着審査があるって、あんたも知ってるでしょ!?」 「あー、そうだった。……って、今から水着選びに行くの? お前、持ってないの?」 「も、持ってるけど! その、ちょっと前に買ったものだから、もう流行過ぎてるし! せっかくだから 新しいものを買いたいの! 文句ある!?」 「あ、ありましぇん……」 何も怒鳴らなくなって……。と言うか、ちょっと前だけでも流行遅れになるものなんだな。 ファッションの世界って厳しいんだな。 「そ、それで、ちょっと調査がしたいんだけど……あ、あんたは、ど、どど、どんな水着が、 す、好きなの?」 え? 「俺? 何でそんなこと聞くんだ? ファッションのことなら、ファッションとかに聞けばいいのに」 一応説明しておくと、前者の「ファッション」は言葉通りの意味で、後者は仇名が「ファッション」の クラスメイトを指している。何かややこしいな。 そう思っていると、ルイズはこんなことを返した。 「ここ、これはあくまで、一般的な男性はどんな水着が好きなのかっていうリサーチなんだから! べ、べ、別に、あ、あんたのこ、ここ、好みとか確認してるんじゃないんだからッ!!」 「……とにかく、ルイズはどんな水着を着るべきか、俺の意見を言えばいいわけ?」 要するに、そういうことだよな。俺の答えた水着を、ルイズが他人に着させるなんて すっとんきょうなことはないだろうし。 「そ、そうよ!」 うーん……。俺個人としては派手めな奴が好きだけど、ルイズには似合わないだろうし、 何よりそれじゃ多分キュルケと被るだろうしなぁ。ルイズに似合うものなら……。 「ちょうどあそこに飾ってるような、フリルのセパレートかな」 側の店のショーウィンドウに飾ってある白のセパレート水着を指して、答えた。 「ふぅん、確かに可愛いわね。フリルがいっぱいで……」 存外、ルイズの反応も悪くなかった。 「けど、ミスコン向きじゃないかもだけどな。他のも選んでみるのはどうだ? 他に良さそう なのがあるかもしれないし」 「と、とにかく、お店に入りましょ。来なさい」 ルイズはそう命じてきた。……えぇ? 「……ええと、俺も行かないと、ダメ?」 「当たり前でしょ!? 何しに来たのよ!」 「わ、分かりましたぁ……」 男が女の子の水着売り場に行くのって、結構勇気がいるんだけどなぁ……。まぁ、下着売り場 よりはマシだと思っておこう……。 新しい水着を購入して店を出たルイズに、俺は尋ねかける。 「なぁ、ルイズ。どんなの買ったのか知る権利くらい、俺にもあるだろ?」 「ダメッ! 絶対に見せないんだからッ!」 ルイズはその一点張りだった。一緒に店に入ったのに、結局水着を一人で決めて会計を 済ませてしまった。それで荷物も自分で持ってるし……。これじゃあ、俺が何のために ついているのか分からないじゃないか。 と、ルイズが急にため息を吐く。 「はぁ……。とりあえず買ってみたけど、これで本当にキュルケに勝てるのかしら?」 「な、何だよ、いきなり弱気だな」 「だって……」 不安げなルイズ。まぁ、気持ちは分からなくもない。少なくとも水着審査は、俺が女だったら まず勝てる自信ないぞ。 「やっぱり自己アピールの時、何かもっと目立つことをやった方がいいのかしら?」 そんなことをぼやくルイズに、俺は、 「そんなことないって! 前にも言っただろ? ありのままのお前でいいって」 「……そうかしら?」 「そうだって! 第一、慣れないことやって自分をアピールできると思うか?」 「……」 俺の意見に、ルイズは沈黙で返答した。 「まぁ、俺から言えるのは、身の丈に合った勝負をしろってことくらいだな。それ以外は何とも言えん!」 「もう、いまいち頼りないわね。でも、まぁ、せっかくサイトがそこまで言ってくれたんだから…… わたしは、ありのままの自分で戦ってみるわ」 ルイズは分かってくれたみたいだ。 「ああ、そうだろ? 自然体が一番だよ!」 「でも、ちゃんと努力もしてるんだからね? 筋トレとか勉強とか、毎日欠かさずやってるし!」 「へー、すごいな! 俺は勉強なんて、テスト前くらいしか真面目に取りかからないよ」 「こら、だから成績が悪いんでしょ。リシュも不出来な兄だって嘆くわよ?」 「うッ、痛いところを……」 なんて言いながら苦笑し合う俺たち。この前は少し不安もあったけれど、何だかんだで いい雰囲気になっているじゃないか。 ……と和んでいたら、唐突に背後の方から頭にガンガン来るようなけたたましいバイクの 爆音が鳴り響いてきた。何事かと振り返ったら、 「オラオラー! イチャついてんじゃねーよ!」 「目障りなんだよぉー!」 五人組の男たちがバイクで歩道に上がり込んできて、俺たちを脅してきた! 暴走族って奴か! 「きゃッ!?」 突然のことに驚いたルイズはバランスを崩し、転倒する! 「いたッ……!」 「ルイズ! テメェら、いきなり何しやがる!」 激怒した俺が車道に逃げる暴走族に怒鳴りつけたが、暴走族には全く悪びれた様子がない。 「俺たちは怪獣だー! 人間の身体を持った怪獣なんだー! だから容赦しねぇぜー!」 更にはふてぶてしい台詞を吐き捨てる始末。くっそ、面白半分で人を危ない目に遭わせやがって…… ああいう奴らには怒りが収まらねぇや! けれど――直後にその怒りが吹っ飛んでしまうくらいのとんでもない出来事が発生した。 走り去ろうとする暴走族の進行先から、怪しい光が立ち上ったかと思うと……地球人なら 誰でも知っている紅い巨人が出現したのだ! 「ウアアアアアア――――!」 あれは……ウルトラセブン!? ど、どうしてこんなところに、いきなり!? 『お、親父!?』 ゼロも驚いて叫んだ。……って、 「えッ!? セブンって、ゼロのお父さんなのか?」 こっそりと尋ねた俺に、ゼロが肯定した。 『ああそうだ。お前に教えてなかったか?』 「あッ、そう言われてみたら、教えてもらったような……」 おぼろげながら、そんな気がする。でも、いつ話してもらったんだったっけ……。 「ウアアアアアア――――!」 などと気にしている暇はなかった。ウルトラセブンは恐ろしげなうなり声を発しながら、 街を踏み壊しながらこっちに迫り出したのだ! 「うあああああッ!?」 悲鳴を上げて反転し、逃亡し出す暴走族。こ、これはどういうことだ!? 「どうなってんだ!? 何でセブンが街を壊すんだ!」 セブンは幾度も地球を守った、正義の戦士だろう! 混乱していると、ゼロが言い放つ。 『……いや、あれは親父じゃねぇ! 強烈なマイナスエネルギーの塊みたいだ! それが親父の 姿を取ってるだけだ!』 何だって!? じゃああれはセブンに化けた、怪獣の一種なのか……! そうなると放ってはおけないが、このままここにいるのはさすがにやばい! 俺はルイズの方に振り返る。 「ルイズ! 逃げるぞ! このままじゃ踏み潰されちまう!」 しかし、ルイズはしりもちを突いたまま動かない。 「さっきので、足をひねっちゃったの……! 立ち上がれないわ……!」 「何だってぇ!?」 このままじゃ非常にまずい! 偽者のセブンはまっすぐこっちに向かってくる! けど、ルイズの前じゃ 変身できないし……。 こうなったら! 俺はルイズに見えないように背中で隠しながら、赤いカプセルを放った。 「キギョ――――――ウ!」 出てきたカプセル怪獣はアギラ! ルイズを避難させるだけの時間を稼いでくれ! 「ルイズ、ちょっと失礼するぞ!」 「えッ? きゃあッ!?」 俺はルイズを、いわゆるお姫さま抱っこの形で抱え上げる。ルイズは何故か急に顔を真っ赤に したが、構っている余裕はない! そのまま横にそれ、セブンの進行方向から逃れていく。 「ウアアアアアア――――!」 「キギョ――――――ウ!」 アギラは偽者のセブンにまっすぐ突進していったが、強烈なキックをもらって仰向けに転倒。 そこを馬乗りされ、ボコボコに殴りつけられる。 つ、強い! すさまじいパワーを感じる……。外見だけじゃなく、力まで本物に近いのか!? アギラはどうにかセブンを押しのけるが、起き上がったところに顔面にハイキックを浴びて またも倒れ込んだ。 「キギョ――――――ウ!」 たまらず逃げるアギラは、ビル群の陰に縮こまって身を隠す。それを見たセブンは、ビル群の 反対側に遠回りに回り込んでいく。 セブンの姿が見えなくなると、アギラは頬杖を突いて座り込んだ! おいおい! 見た目が 主人そっくりだから、戦意が沸かないのか!? しかし、偽者のセブンは既にアギラの背後に回り込んでいた! 「ウアアアアアア――――!」 セブンに背中を足でつつかれたことで、弾けるように振り返るアギラ。 「キギョ――――――ウ!」 その瞬間にまたも蹴り飛ばされた! くそぉ、アギラじゃまるで歯が立たない! でも、この間にルイズを安全なところまで運ぶことが出来たぞ! 「ルイズ、ここにいてくれ!」 「サイトは!?」 「俺は……この状況をどうにかしないと!」 離れるのに上手い言い訳が思いつかず、漠然とそう言った。でも、ルイズは詮索せずにひと言、 「……頑張って!」 「! ……ああ!」 応援の言葉を受け、ルイズの元から駆け出す。 ……もしかしてルイズは、俺がゼロだということに勘づいているんじゃないだろうか。 だからこの前の戦いでも、あんなことを……。でも、いつ気がついたというのだろうか? それらしい心当たりはないんだが……。 いや、今はそれよりもあのセブンを止めないと! あの姿で、これ以上街を破壊させる訳にはいかないぜ! 「デュワッ!」 ゼロアイを装着して、ゼロに変身! ゼロはアギラを下し、また一直線に進み始めたセブンの 前に立ちはだかる。 『やめろ! 俺の親父の姿で、こんな乱暴を働くんじゃねぇぜ!』 「ウアアアアアア――――!」 ゼロが呼びかけても、セブンは何の反応も見せずにゼロにまで襲い来る! 言葉がまるで 通じてないみたいだ! 『聞く耳持たねぇってか……! しょうがねぇ!』 やむなくセブンと戦い始めるゼロ。相手の上段蹴りを避けて肩を捉え、ひねり投げるが セブンは着地。反対にゼロを投げ飛ばす。 『うッ!』 「ウアアアアアア――――!」 更にセブンはパンチのラッシュとキック攻撃を放ってくる。ガードを固めたゼロだが、 その上からの衝撃によろめく。 『このッ!』 「ウアアアアアア――――!」 相手の腹部に横拳を入れて突き飛ばしたが、セブンはその先の建物を引っこ抜いて、ゼロの顔に 叩きつけてきた! 『ぐあッ! くそ、何つぅパワーなんだ……!』 ゼロは相手の身体を透視で分析した。 『こいつは怒りのオーラの結晶だ……! だからこその度を越えた勢いか……!』 「ウアアアアアア――――!」 セブンの攻勢は留まることを知らず、ゼロに肉薄して両肩を掴んできた。そのまますさまじい 握力で締め上げる! 『ぐぅぅッ! ま、まだまだぁッ!』 苦しむゼロだが膝蹴りを入れて振り払った。だがセブンは次に額のビームランプに指を添えると、 青白いレーザー光線を発射してきた! 『うおぅッ!』 ギリギリ側転で逃れるゼロ。エメリウム光線もどきも使えるのかよ! 『こんにゃろぉッ!』 ゼロスラッガーを飛ばして反撃するが、セブンはひねりをつけたジャンプでスラッガーを かわし切った。パワーだけじゃなく、スピードと身のこなしまで相当なものだ……! こいつは かなりの強敵だぞ! 「ウアアアアアア――――!」 と、ここでセブンが奇妙な攻撃をしてきた。足元のミキサー車を、綺麗なフォームで 蹴り飛ばしてきたのだ。 ミキサー車をはたき落としたゼロも、これに気を掛けた。 『今のは親父の技じゃねぇぜ……』 『じゃあ、誰の技なんだ? サッカー選手さながらの完成された動きだったけど……』 それに冷静になって観察してみると、あのセブンの怒りの矛先は、さっきの暴走族にのみ 向けられているみたいだ。まっすぐ進んでいたのは、暴走族を追いかけていたからなのか。 「シャッ!」 ゼロはもう一度透視を使い、セブンの身体をもっと精密に分析した。その結果、 『こいつは親父の人形を核にして、誰かの怒りの感情エネルギーで構成されてる。つまり生霊が 取り憑いてるようなもんだ。暴走族を執拗に狙ってるのを見ると、あいつらに傷つけられた奴が 親父の姿を借りて復讐をしようとしてるってところか……』 『そういうことだったのか……』 セブンの横暴の理由を悟ったゼロは、青く輝くルナミラクルゼロに変身した。そして超能力で テレパシーを増幅し、セブンに向けて呼びかける。 『ウルトラセブンの人形の持ち主の魂よ! 俺の言葉を聞いてくれ! あんたは、他のセブンを 慕う人たちの気持ちを、傷つけるつもりなのか!?』 そう問いかけると、セブンがハッと気がついた風に足を止めた。 『あんたにも事情があるんだろう。あの暴走族にひどいことをされたのかもしれない。けど、だからって 街を壊していいことにはならないだろう! セブンが暴れて街を破壊したら、セブンを信じてる多くの 人が嘆き悲しむ! 人形を持ってるほどセブンを愛してくれてるのなら、それがどんなにひどいこと なのかは分かってくれるだろう!?』 セブンは我に返ったかのように、自分がボロボロにした街を見渡し、唖然として立ち尽くした。 もうセブンに暴れる意思はなくなっていた。後は、元の人形に戻してやるだけだ。 『フルムーンウェーブ……!』 ゼロがフルムーンウェーブを浴びせると、セブンは力を失ってその場に横たわった。ゼロはその 身体を抱え上げる。 「……ジュワッ」 そのまま大空に飛び上がり、セブンを遠くへ運び去っていった。 夕方。俺はルイズと帰りの駅にいた。 「ルイズ、足はもう大丈夫か?」 「ええ、腫れは引いたわ……。あ、あの……た、助けてくれて……ありがとう……」 「気にするなよ。あれくらい当然みたいなもんだ」 ニカッと笑いかける俺。ルイズはさすがに恩を感じて萎縮しているのか、変にもじもじしている。 だから気にすることなんてないのにな。 「でも、買い物は台無しになっちゃったな。買えたのは水着だけか」 「大丈夫よ。水着だけでもあれば、後は何とかなるから」 そうなのか。それならいいんだけど……結局、荷物持ちの仕事をすることはなかったな。 俺、何のために来たんだろう。 そう思っていたら、ルイズがほんのり赤らんだ顔で俺に告げた。 「今日は、大変な目に遭っちゃったけど……た、楽しかったわ。それなりにね」 「そりゃよかった。俺も結構楽しかったよ」 ルイズが足を痛めたのでその後の買い物は出来なかったけど、休んでいる間に二人で 色々と話をしたのだった。女の子と二人きりで長い時間会話するというのも、なかなか 新鮮で楽しい経験だった。 「ふぅん、そう。あんたも楽しかったのね。一日、つ、つき合ってくれて……ありがと」 「……ルイズ? お前、どうした? いくら何でもしおらしすぎるぞ?」 あまりにもルイズが大人しく素直に物を言うので、俺はまだ何か悪いところがあるんじゃないかと 勘繰りしてしまった。 「どういう意味よ! もう、わたし帰るからね! それじゃあ!」 あちゃあ、怒らせてしまった……。どうして俺ってば、余計なことを言ってしまうんだろうか。 まぁ、ルイズには明日謝るとして、俺ももう帰ろう。リシュが心配するといけないしな。 そう思って踵を返すと……。 「サイトさん……」 「ひッ!?」 シエスタの顔がそこにあって、思わず引きつった声を上げてしまった! って、何でシエスタが こんなところにいるの!? 「シシシシ、シエスタ! いつの間にいたの!?」 「……さっきから見てました。あの人と一緒に駅前に来た時から」 ええええー! 気がつかなかった! というか、それって大分前のことだろ!? それまでずぅっと 俺たちの後についていたってのかよ! ゼロも教えてくれたらよかったのに! 「サ、サイトさん。これって、どういうことですか?」 シエスタは妙に怖い顔で問い詰めてくる。 「どういうことって……何が?」 「リシュさんに聞いたんです。今日は、サイトさんがデートに行ったって!!」 「ま、待て。誤解。誤解なんだッ! それはリシュが勝手に言ったことであって……」 必死に弁解するが、シエスタに俺の言葉が届いている様子がない。 「うううう……。やっとのことで、見つけたと思ったら、あの人と、仲良く、話なんかしてッ! ひどいですサイトさん! わ、わたしに黙ってデートなんてッ!」 「わーわー! 何叫んでるんだシエスター! 誤解だってば!」 叫ぶシエスタを、俺はその後必死でなだめた。そして何故か罪滅ぼしだとか言って、シエスタの 好きな店で夕飯をおごることになってしまった。おまけに「リシュさんも被害者です!」とか言って リシュまで呼んで……。どうして妹のリシュが被害者になるんだよ……。 とほほ……いつも怪獣と戦って平和を守っているのに、どうして俺ってこんな羽目になるんだろうか……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3041.html
前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ ルイズが落とし穴に落ちていって消えてしまったのをまるで何事も無かったかのように行動するももえ達。 キュルケはこの状況に戸惑っていたが、タバサはこの場所がすっかり気に入ってどうでもよくなったらしく本を広げて完全にくつろぎ始めた。 「そうだ、二人ともこのままごはん食べていかない?」 ももえがキュルケ達にそう声をかけた瞬間、客間の扉が開いておぼんに料理を載せたメイが現れた。 「…どうぞ…。」 出された料理はだしがはいったどんぶりの上に麺と天かすとナルトとネギが乗ったもの。つまり… 「うどん?」 「そう、うちらの世界では有名な食べ物なんだよ。」 そう言って、ももえは慣れた手つきで箸を口で割った。 キュルケは初めて日本料理を目にした外国人のように目をぱちくりとさせている。 ちゅるるん キュルケもももえのを見よう見まねでうどんを食べてみる。 すると、口の中にスープに似た温かみと、だし汁の香りがいっぱいに広がった。 「おいしい! ねえ、これおいしいわよねタバサ?」 一方、初めてとは思えないほど箸を器用に操ってうどんを食しているタバサは、顔を上げて一言 「サマンサタバサ」 と言った。 「え、ちょっと待って? 今の何?」 タバサは戸惑いまくるキュルケをよそに、またうどんを食す作業に戻った。 『裏設定から解放されたタバサは、もはやタバサでしかないのだ!』 部屋の中はうどんの啜る音と湯気で満ち満ちていた。デス子はふと顔を上げて水を飲んだ。そしてももえに聞いてみる。 「なあ、ももえ」 「ん?」 ももえはうどんを銜えたまま顔を上げてデス子の方に向いた。 「なんで、前回は斬って落ちなかったんだ?」 「ぼふっ」 ももえは音を上げてうどんを目の前のデス子に噴出した。 「いや、でも読み返してみたら前々回も斬った後に色々あったし………」 慌ててキュルケがあたふたとフォローを入れる。 デス子はうどんまみれのままにタバサから七味を受け取り、それをうどんにかけて音を立てて啜った。 「あれは無印ももえの3話のチョコのネタを使っただけだろ? 前回は明らかなオリジナルでたんなる入れ忘…… 「わーわーわーわー」 「(作者を)どげんとせんといかん」は褒め言葉 「ゼロの使い魔死神友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生ももえサイズ」 たららららった、たーらららった、たーらら、らーららー 「いたたたた…………」 一方、落とし穴に落ちてしまったルイズは思いっきり尻を地面に打ってしまい、尻をしきりになでなでしていた。 「何なのよいったい………ってこの格好は何?」 ルイズは目の前の水晶に移っている自分の姿に大いに驚いた。 そこには緑のとんがり帽子をかぶり、緑のローブに身を包み、緑のマントをはめた緑ずくしの衣装に身を包んだ自分が居たのだ。 「ださっ………」 ルイズは真っ先にこの衣装を脱ぎ捨てたい衝動に駆られた。緑色は4大元素の風属性を象徴する色である。自分に合うはずが無いのだ。 『ルイズは服を脱ごうとした しかしルイズは服を脱ぐことが出来なかった!』 「なんでなのよ! いくらちい姉さまに着替えてもらってたからって、服を脱ぐくらい一人で出来るに決まってるじゃないのよ!」 思わずルイズは叫んだ。そこで、ルイズは自分が今おかれている状況に初めて気付いた。 「遠くが……見えない……。」 そう、ルイズがいる部屋以外は何も見えないのである。右や左に部屋と部屋とを結ぶ通路があるのが分かるくらいだ。 「で、この杖は………あーっ!!! この杖、私のじゃないじゃないのよ!」 見ると自分の杖とよく似ているが別物なのである。ルイズはパニック状態に陥り、杖を闇雲に振り回す。 ぶんっ ぶんっ ぶんっ ぶんっ 「全く、わけがわかんないわね。早くここから脱出しないと………」 そういって、ルイズが右斜め前に1マス動いた瞬間 「あれ……?」 この時、ルイズの四方にはたまねぎの形をした青色の生物がいた。どうみても敵キャラである。 「囲まれた………?」 「不可思議のダンジョン?」 「うむ。ここの地下は不可思議のダンジョンといって、入るたびにダンジョンの形が変わる不思議な場所なんだよ。」 食後に出されたお茶を皆で飲みながら、デス子はそう言った。すると急に遠い目をして語り始める。 「あれはももえがまだ幼い頃、ももえが一人で屋敷の探検をしたんだよ。」 外はまだ暴風が収まらず、風がびゅうびゅう吹いていた。タバサもキュルケもデス子のほうに注目する。 「今は、不可思議のダンジョンの入り口は封印してあるのだが、昔はももえが入ってしまえるほど緩かったんだ………。」 「ねー ママ この大きな穴って何?」 「あっ、その穴に入ってはだっめえええええええっ!!!!」 好奇心旺盛だったももえはその穴の中に入り込んでしまった。 「私も行くぞっ!」 デス子はすぐさま穴の中に飛び込んだものの、そこにはももえがいなかったのだ。 「不可思議のダンジョンは帯同者を連れて来ることは許されてない。 だからその時、私達は同じ不可思議のダンジョンに入っているのにもかかわらず、全く違うところにいたのだよ。」 「つまり、二人は離れ離れになっていたということですか?」 「その通り。その時は外部から連絡する手段なんて無かったから気が気で仕方が無かった。 早く脱出しようとしたのだが肝心なときに脱出に必要な巻物が全く見つからなくてな。」 「そしていつしか宝探しに夢中になってて、巻物を見つけて脱出したのが80Fあたりだった………。」 宝物を持ってダンジョンを脱出したデス子が見たものは担架の中で横たわっているももえだった。 「ももえ、しっかりしろ、ももえ!!!」 「まま わたしおへやのなかでなきさけんでてたらきゅうにすこっぷもったもぐらがでてきてよってたかってわたしをいじめたんだよ ずっとなぐられるとおもってめをつぶってたらいつのまにかしらないおじさんたちにたんかでかつがれてここまではこばれてきたの ままごめんね わたししらないおじさんたちにゆうかいされそうになっちゃったよ しらないおじさんにはなしかけられたらけりとばせってままにいわれてたのに」 「ももえ、しっかりしろおい! ももえーーーーー!!!!!!!」 デス子は眠りに就こうとするももえの体を必死に揺さぶり続けたのであった。 「嫌な事件だった………。」 そう言ってデス子は湯飲みに口を付ける。するとおもむろに湯飲みを思いっきりちゃぶ台に叩きつけた。メイは慌ててきゅうすを持って走り出した。 「不可思議のダンジョンにはモンスターがたくさんいる。」 「モンスター?」 思わずキュルケは割り込んで質問してしまった。しかし、デス子はそれを気にすることも無く話を続ける。 「そう、モンスターだ。スライム、ゴーレム、バーサーカー、シャーマン、他諸々が生息している。 私も80Fぐらいまでしか行ったことがないからわからないな。あと、お宝とかそういうのも色々あるぞ。」 「ちょ、80Fって………」 また突っ込みかけたキュルケだったが、 「…どうぞ……。」 メイが急須を持って戻ってきたので話は中断された。メイがデス子の湯飲みにお茶を入れ、デス子はそれを一気に飲み干した。 「!!!」 デス子はおもむろに立ち上がると壁に向かって頭を打ちつけ始めた。 ガンッガンッガンッガンッ 「……熱かったんですか?」 キュルケがそう問うと、デス子は首を激しく縦に振りながら壁に向かって頭を打ちつけ続けた。 「どうする、どうするのよ私!?」 一方モンスターに囲まれたルイズは自分がポシェットのようなものを持っていることに気付き、その中に何かないかがさごそと漁り始めた。 「あった!」 ルイズは中に巻物が入っているのに気付いて、それをおもむろに取り出した。 『大事に使ってね(はぁと)』と書かれていたが、日本語が読めないルイズはそれが理解できない。 だから巻物の使い方も理解できなかったのだ。 『ルイズは聖域の巻物を読んだ! しかし何もおきなかった』 「何でなのよ!全然使えないじゃないのよ!」 ルイズがそう言って巻物を放り投げた刹那、今まで石のように動かなかったモンスターたちが急に襲いかかってくる。 「痛っ!」 『ルイズは2ポイントのダメージを受けた!』 「はぅっ!」 『ルイズは3ポイントのダメージを受けた!』 「きゃあっ!」 『ルイズは3ポイントのダメージを受けた!』 「あれ?」 『モンスターの攻撃は外れた』 ルイズは自分の体力が確実にダメージを受けていることに気付いた。 恐らく次のターンでダメージを受けたらもうダメだろう。それだけは避けなければならない。 ルイズは大きく息を吸い込みやけっぱちになって呪文を唱えた。 「もうどうにでもなれーーーーーっ!!!!」 思わずルイズは目を閉じた。その瞬間ルイズの体が七色に光りだした。 「………あれ?」 しばらくして、ルイズが目を開けてみるとそこにはモンスターが一匹もいなくなっていた。 『たららたったったらー ルイズはレベル3になった!』 「あれ、なんか心なしか強くなったような気が………」 ルイズが自分の体をくまなく調べようとしたが、またモンスターがやってきた。今度は落ち着いて杖をかざして呪文を唱える。 「ファイアーボール!」 ファイアーボールは見事、モンスターに命中しモンスターは消え去っていった。 するとルイズは自らの体の変調に気付いた。 「あれ、なんか心なしか体力を消耗したような気が………」 『魔法使いは自らのHPを引き換えにして魔法を使うのだ!』 「何その設定………」 ルイズは足を引きずりながらもとりあえず階段を目指して歩き始めた。 「ところでももえ………」 食後、メイが皆にお茶を入れてくれた。その茶を皆で啜る。タバサはお茶請けのきんつばを楊枝を使ってぱくぱくと食べていた。 「大丈夫なの? そんなに食べて」 思わずキュルケはタバサを心配した。明らかに食べすぎだからである。しかし、タバサは茶を啜りながら一言 「私、胃下垂だから。」 ???ものしり館??? 胃下垂【いかすい】 胃が正常な位置下までたれ下がっている状態の事を言う。 俗に胃下垂だと食べると太らないと言われている。ある女子高生漫画でもこういう設定のキャラがいた。 「あぁ……そうなんだ………」 どこか遠い目をしたキュルケもお茶を啜った。本当においしい飲み物だと思った。 そして、顔をタオルで拭いたデス子はももえが口に何も含んでいないことを確認して聞いてみることにした。 「ところで、穴に落ちた彼女は一体何者なんだ?」 「魔法使いだよ。」 ももえは端的にそう答えた。デス子は顎に手をあてて少し唸った後、更にももえに聞いてみた。 「ふむ………。で、あいつはお前にとって何なのだ?」 「うーん…………。」 ももえは珍しく頭を抱えて考え始めた。キュルケは何も考えずにただお茶を啜り、タバサは何も考えずにきんつばを口に運ぶ。 「強いて言うなら………使い魔……かなっ」 キュルケとタバサが同時に噴出した。しかもデス子のほうに向かって。 「まさか」 すかさずメイがさっきのタオルで顔を拭いたがデス子は気にせず会話を続けた。 「使い魔というものはまず、主人の目となり耳となること…つまり感覚の共有。これを行わなければならない。」 キュルケは目が点になった。それに気付くことも無くデス子は話し続ける。 「更に、あちこちに眠る秘薬を探してくるのも使い魔の重要な役目だ。この秘薬があるのとないとでは全然違うからな。 そして、一番重要なのは身を挺して主人を守ることだ。これすら出来なければもはや単なるお荷物でしかない。 あいつを見る限りとてもじゃないがそんなことは出来そうに見えないのだが……」 「できるよ」 ももえは笑顔で即答した。それを見たデス子はふっと母らしい笑みを見せ 「そうだな、私の娘が見込んだ使い魔だ。出来が悪いはずが無い。はっはっはっは」 「はっはっはっは」 ももえと一緒に高笑いをしたのであった。 「ねえ、モモエが使い魔であってるのよね?」 キュルケはタバサにそう耳打ちをした。タバサは首を激しく上下させる。 「……お嬢様…は……いつも……本気…です…。」 メイのつぶやきに二人はびくっと体を震わせた。 「まああの不可思議のダンジョンをクリアしたら認めてやらなくは無いが………まず無理だろうな。」 「だね!」 二人して高笑いするデス子とももえ。すると、博士がそっと耳打ちをしてくれた。 「扉を出て左に向かってすぐの部屋にダンジョンにワープできる装置がございます。それでルイズさんを連れ戻して来て下さい。」 「でも、あそこは危険だって……。」 「学生でも魔法がある程度使えるのでしたら問題は無いでしょう。ここはあなたの腕を見込んでお願いしているのです。」 そう言われて、キュルケは思わず笑みを浮かべて、「そうね、いつまでもこんなことしてられないし………ってあんたも露骨に嫌そうな顔しないの! あんたも来るのよっ!」 タバサを引き摺るように立ち上がらせた。 「あれ、あんた達どこいくの? あっ、まさかトイレ!? 連れションなの? あんた達って連れションをするような仲なの!?」 「連れション言うな」 そう突っ込みを入れてキュルケとタバサは客間を後にしたのだった。 「ねえ、ママ私も後で見に行っていい?」 「ああ構わんさ。我が死神家のGPSにかかればあの小娘の居場所など造作ないさ」 「はぁはぁはぁはぁ…………」 数々の魔法を駆使して27Fまで辿り着いたルイズ。ここでルイズは初めて、敵以外のモンスター達と遭遇した。 「やあ、こんなところで人間に会えるなんて奇遇だねえ。」 「あんた、私を見ても攻撃してこないのね……とりあえず敵じゃなさそうだわ。」 「君は俺に攻撃してきたけどね。」 声をかけてきた彼は大柄でへそだしのシャツを着ており筋肉隆々の上半身をルイズに見せつけていた。 「お嬢さんの知り合いかい?」 「お嬢さん………って事はあんたモモエの使用人なの?」 「いかにも。俺の名前はヒル 死神家の運転手の仕事をやらせてもらっている。そして君が……」 「やあ、あなたがルイズ・フランシスカ・ブ・ライト・マキ・ハタ・サイボーグだね?」 ???ものしり館??? マキハタサイボーグ メジロブライトの代表産駒 ステイヤーズSを9番人気で優勝した 「そう、私は……って誰よそれ! だいたいそれ最初のルイズしかあってないじゃないのよ!」 「これは失礼。確かルイス・フランドル・ル・オーシバ・ド・ラ・ゴノーツ……」 「全然違うじゃないのよ! それに最初のルイズすらあってないじゃない! それに最後のドラなんとかって…」 「胸の大きさではジークリンデの圧勝だな。」 「そんなこと誰も聞いてないわよっ!!!!」 ルイズはヒルの横に大きな生物がいることに気付いた。首を上げて見上げてみると何か小さな生き物も乗せていた。 筋肉隆々の巨大な体に蝶ネクタイがやけにマッチしているような気がした。 「こいつは庭師のオクタイ君。上に乗ってるのがペットのケモンさ」 ヒルがそう紹介するとオクタイ君は首を上下に動かしておじぎをした。それだけでダンジョン内が揺らいだように見えたが恐らく気のせいだろう。 「私の名前はルイス・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 ヴァリエール家の令嬢で、トリステイン魔法学院の二年生で………ってあんたたちどこへ行くのよ!」 何事も無く去ろうとする彼らをルイズは必死になって引き止めた。 「あんたたちこのダンジョンから来たんでしょ?脱出する方法も知ってるわよね? だから私を早く脱出させなさいよ!」 「お前を脱出させてやるには構わないが……俺らはおつかいを頼まれててな。それが終わってからでもいいか?」 「ええ、いいわよ。」 了承したルイズはヒル達にダンジョン内をついて回ることにした。すると……… 「あれ? これなんかの巻物じゃない? 今まで見たこと無いものだけど………。」 いきなり巻物を拾ったルイズはとりあえず巻物を読んでみる事にした。すると急にアイテムがルイズの下に集まった。 「おおっ。この巻物すごいじゃない! なんかアイテムが私にひきよせられてる感じですっごくいいわね!」 嬉々としているルイズをよそに、どんどん顔色が青ざめていくヒル達。そして周りの空気が一瞬にして変わる。 「何よ!? あんた達、せっかく私がアイテムをひきよせたんだからもっとよろこびなさ……ってええっーー!!」 ルイズ達の目の前に大勢のガーゴイルが現れたのだ。 「では俺達は先に失礼させてもらうよ。」 ヒル達は手にした巻物を読んであっという間にこの場から消え去っていった。 「って、私置いてけぼり!? 今度こそどうする、どうするのよ私!?」 ルイズは壁の隅に逃げ込もうとするが、ルイズの2倍の速さで動くガーゴイルにたちまち追い詰められてしまう。 ざくっ 『ルイズは54のダメージを受けた』 「って今のでHPのほとんど削られたじゃないのよ! このガーゴイル強すぎるわよぉ!」 そして、壁の隅に逃れたものの三方を固められたルイズ。もはや逃げ場など無い。 「いやあああああああああああっ!!!!」 思わず涙を流して泣き崩れたルイズ。ガーゴイルが攻撃を食らわそうとした瞬間 ずばっ ずばっ ずばっ 「…あれ?」 ルイズが目を開けると、音も無く崩れ落ちたガーゴイルと 「全く、あんたも世話を焼かせるねえ。」 「モモエ………。」 9方位+1貫通で攻撃できるカマを持ったももえがいた。 『ももえのカマで斬られたモノの存在はももえが肩代わり』 「ルイズ、助けに来てやってわよ!」 「キュルケ!」 キュルケはそう言って火の魔法をガーゴイルにぶつける。 「タバサ!」 「任せて」 タバサは風の魔法で部屋全体のガーゴイルに攻撃をかけた。 「負けちゃいられないわね。よーし…………」 ルイズは精神を集中させて今ある限りの力を篭めて呪文を唱えた。 「はあああああああああああああ!!!!!!」 刹那、ルイズの体が光りだす。そして部屋に大きな爆発が起きた。 「………私達も帰ろうか。」 ももえ達も巻物を読んでその場を後にした。 「ただいま、ママ」 「おかえり。」 ももえ達の帰りをデス子達が迎えてくれた。 「どうだった?」 「うん、おつかいは無事に済んだよ。はい」 ももえは食物が入った買い物かごを買い物リストと一緒にデス子に渡した。 「ふむふむ………よし、今回はちゃんと買えたみたいだな。」 デス子はにっこりと微笑んだ。ももえも明るく笑っている。 「……ルイズはどうしてますか?」 キュルケがきょろきょろと周りを見回した後にデス子に声をかける。するとデス子にもわからないらしく首をかしげていた。 「まあ、そのうち帰ってくるだろうが……あ、きたきた。」 「本当に知らないおじさんだったんだ………」 ルイズは見知らぬおじさん達に担架で運ばれてダンジョンの入り口にそっと安置された。 ルイズは目が虚ろで口が半開きの状態でとてもヒロインと呼べるような状態ではなかった。 「あは、ははは………」 「ルイズ、大丈夫? しっかりして!」 キュルケは思わずルイズを揺さぶった。それにあわせてルイズの両腕がぷらぷらと音を立てて揺れているのが分かった。 「あはは………せっかくわたしまほうつかいになったのにぜんぜんじゅもんとかおぼえてないんだよ なんかね、もうどうでもよくなってきちゃったっていうか わたしはもうへいみんとふぁーすときすからはじまるふたりのこいのひすとりーをてんかいしたいっていうか」 「重症ですな………」 それを見た博士は思わず唸った。そしてルイズの額に手をあてる。 「ふむ………」 博士は目が虚ろになったままのルイズを見て診断の結果をこう断言した。 「これは風邪ですな。」 「風邪? じゃあ、さっき買ってきたものにいいのがあったね。メイちゃんそれ貸して」 ももえはメイから買い物かごを受け取るとがさごそと漁ってあるものを取り出した。 「じゃーん」 「これは…」 「何?」 「…ネギ……です…。」 二人の疑問にメイがそう答えた。一方、ももえはネギとカマを取り出す。 「じゃあ半分貰うね。」 ざくっ 『ももえのカマで斬られたモノの存在はももえが肩代わり』 「それをどうするの?」 「…お尻に……刺しま…す…。」 キュルケに聞かれたメイは少し顔を赤らめながらそう答えた。 「じゃあさっそくいくよー。ルイズ、あんたよつんばいになって。」 「はーい」 ルイズはももえに言われるがままにスカートをおろしてよつんばいの体勢になる。 「とおっ」 そういって一気にネギを突き刺したももえ 「アーッ!!!!」 ルイズはあまりの激痛に目を極限まで見開き、舌と涎を垂らせてぴくぴくとよがっていた。 「……お嬢様………」 「何、どうかしたの?」 さらに奥深くにネギを突っ込もうとするももえに対しメイは思わずももえにつっこんだ。 「……刺す場所……間違えて…ます…。」 「あ」 ※ おわり これまでのご愛読、ご支援ありがとうございました。 ※ 次回から始まる「ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水下級生ももえサイズ」に乞うご期待!!! おまけ 壁―――― ○●●●● ○=ルイズ ●●△●● △=ももえ ●●●●● ●=ガーゴイル ●●● わかりづらいかもしれませんが、ももえがカマを1回振ったとき(9方位+1貫通)の攻撃範囲です。 壁によって遮られていますが、ももえのカマ(通称もカマ)の最大攻撃範囲は8+12=20となります。 なおかつガーゴイルのHPは500と設定されていますのでそれを一撃で倒したということからも、もカマのチートぶりがおわかりいただけるかと思われます。 前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9305.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十一話「GO!! 地底の決死圏」 集結怪獣ガミバ 登場 「ふぁぁ~……んが!?」 ……朝、目を覚ました才人は、ふと横に目をやってあんぐり口を開いた。 「くー……すー……」 自分の隣に、見慣れない小さな女の子が眠っているのだ。 (な、何で俺の隣に幼女が!?) どうしてこんなところに、もしかして犯罪にならないだろうかと顔色を白黒させていると、 デルフリンガーが呼びかけてきた。 「相棒、なに百面相してんだ」 「ででで、デルフ! この子何!?」 才人が問い返すと、デルフリンガーは若干呆れた声を出した。 「何って、そのちっこいのは夕べ、相棒と娘っ子が連れてきたんじゃねーか」 「……あ。そうだった……」 指摘されて思い出す才人。昨日、舞踏会に使えそうな道具を探そうと地下室に潜った際に、 箱の中に眠っていたこの少女、リシュを発見したのだった。 リシュはまだ目を覚ましていないが、寝言でこう発する。 「むにゃ……サイト……おに……ちゃん……」 「お、俺のこと?」 「じゃねーの? 懐かれてんねぇ」 冷やかすデルフリンガー。 「ま、まぁな! 俺ってお兄ちゃんキャラだったんだな!」 苦笑を浮かべた才人は、改めて寝ているリシュを観察する。 (こうしてると、ほんとかわいいなぁ。同じ小さいもの同士でも、ルイズとは違った魅力が……) リシュの幼い愛らしさに軽く惹き込まれ、知らず知らずの内に顔を近づける。すると、 「……サイト、何をやってるのかしら!?」 「ひぃッ!?」 背後から怒声を浴びせられて、咄嗟に振り返る。見ると、ルイズもシエスタも目を覚ましていた。 「ル、ルイズ、シエスタ……おはよう!」 才人はごまかすようにあえて元気よく挨拶したが、そんなものが通用するはずがなかった。 「おはようじゃないわッ! リシュの顔を覗き込んで、何をしてるのかって聞いてるのよ! ま、まさか、キ、キス……」 「サイトさん? 寝てるリシュちゃんにいかがわしいことをしようなんて、いくら貴族に なったからといえども許されませんよ? 官憲さんを呼びましょうか?」 ルイズは勝手に誤解して真っ赤になり、シエスタは笑いながら冷え切った言葉をぶつけてきた。 必死で否定する才人。 「違います! 違いますったら違いますぅ!」 「問答無用! そこに座りなさい、犬!」 「えええええ!?」 だが聞いてもらえず、ルイズによって床の上に正座させられた。 彼らが騒がしくしたからか、リシュもまた起床した。 「……むにゃ? もう朝ぁ?」 才人たち全員が忙しそうなので、デルフリンガーがリシュに朝の挨拶をする。 「おー、おはよ、ちっこいの。悪いけどよ、ちょっとばかし待っててくれ。いつものが始まっちまった」 「いつもの?」 リシュが才人たちの方を振り向くと、 「ほら、わんでしょ! 犬はわんでしょ!」 「わん! きゃわわんッ!」 嫉妬心を爆発させたルイズが、才人を折檻していた。 「……あれ、何?」 「ちっこいのは知らなくていい世界さ」 「……」 デルフリンガーはそう言ったが、リシュは妙に静かになって才人たちのやり取りを見つめていた。 「どーした? びっくりしちまったか?」 「ううん、何でもなーい」 聞き直したデルフリンガーに首を振るリシュだった。 「……もうッ! 油断も隙もありゃしないんだから! 一刻も早くオールド・オスマンに相談して、 リシュの身柄を預かってもらうのが一番ね!」 いつまで説教してもルイズはぷりぷりと怒りが冷めやらない様子だが、その時にゼロが そっと囁きかけた。 『おい、その肝心のリシュだが、目を離してていいのか? どっか行こうとしてるぜ』 「えッ?」 告げられてルイズたちが振り返ると、リシュはこっそりと扉から部屋の外へ脱け出そうと しているところだった。 「リ、リシュ! 駄目じゃないか!」 「あッ……!」 慌てて立ち上がった才人がリシュを引き止める。 「一人で出ていっちゃ駄目だぞ。お前が学院の中をうろついてたら、みんながびっくりするじゃないか」 「だ、だって……ルイルイのお話し、長いんだもん……」 「だからって、勝手なことはしないでよ。ああ、驚いた。二度とこんなことはしないでちょうだい」 「まぁまぁ、ミス・ヴァリエール。相手は小さい子供なんですから、ある程度は仕方ないですよ。 大目に見てあげましょう」 大きくため息を吐くルイズをシエスタがなだめた。 「デルフも、どうして止めようとしてくれなかったのよ」 「無茶言うなよ。俺は自力で動けないんだぜ?」 「全く……。まぁいいわ。リシュも起きたのなら、授業までにオールド・オスマンのところへ 行きましょう」 場を取りまとめるルイズ。皆がそのための支度をする中で……リシュは不安そうな、その一方で何かを 思案しているような、そんな表情を浮かべた。 さて、ルイズたちはリシュの件をオスマンに報告しに行ったのだが、何と意外にも、オスマンでさえ リシュのことを何一つ知らなかった。地下室に棺のような箱があり、その中に少女が眠っていたことなど、 完全に初耳だというのだ。 何故リシュが箱の中に閉じ込められていたのか、どうしてその場所が学院の地下なのか、 誰がそれをしたのか……最近の怪獣頻出の謎と合わせて、現状では分からないことが多すぎる。 そのため、リシュの件は当分極秘事項ということになった。また、学院側でリシュを預かるのは 目立ってしまうということで、もうしばらくはルイズたちの元に置いておくこととなった。 それにはルイズは少々残念そうであったが、リシュは反面嬉しそうであった。 そしてリシュの件を調査するに当たって、初めにリシュが眠っていた箱を調べることとなった。 リシュ自身が入れられていた箱が、一番の手掛かりであろうと。 そういうことで、箱を発見したルイズと才人がオスマンをその場所へと案内することになった。 地下室に下りると、オスマンはふうと大きく息を切らしながら腰を叩いた。 「やれやれ、この老齢にもなると、勝手知ったる学院の中でさえも移動するだけでひと苦労じゃわい」 「大丈夫でしょうか、オールド・オスマン」 オスマンの身体を気遣うルイズ。 「ああ、構わんよ、ミス・ヴァリエール。はぁ、こんな時にミスタ・コルベールがおったら よかったんじゃが」 コルベールの名前を聞き、才人は一瞬表情に影を落とす。 「あッ……今のは失言じゃったな。気にせんでくれ。それより、例のミス・リシュが入れられていた という箱はどこかな?」 「確か、あちらの方だったかと」 地下室の一画を指差すルイズ。地下室は昨日あんなことがあったばかりなので、手つかずのまま 荒れ放題になっている。モゲドンが開けた大穴もそのままだ。 「ひどい具合じゃな。後で片づけの計画を立てんと。穴をふさぐには、土系統のメイジが何人も 必要になりそうじゃ。それも見繕わねばならんのぉ。全く、仕事ばかりが増えるわい。いい加減 新しい秘書を探そうかのう」 ため息だらけのオスマンを一瞥して、校長先生って大変なんだな、と才人は感じた。 しかし落ち着いていられるのはそこまでだった。突然、彼らを大きな揺れが襲ったのだ! 「うわッ!?」 「あいたッ! 尻を打ってしまったわい……!」 「お、オールド・オスマン! 立てますか?」 揺れによってしりもちを突いてしまったオスマンを、ルイズが助け起こす。 「今の揺れ……まさか、昨日の今日なのに、また!?」 ルイズが顔を青ざめていると、彼らの耳にガリガリと何かがかじられるような音が聞こえた。 「な、何よ、この音……?」 「あッ! あそこだ! あそこに変な生き物がたくさん!」 才人が指した先には、暗い緑色の軟体生物が大量に湧いていた! モゲドンの開けた穴から 地下室に侵入してきたのか。 「あのくねくねしたナメクジみたいのが、箱をかじってる!」 その軟体生物たちは、例の箱の周りに発生していて、箱や家具等をガジガジかじっているのだった! 「あぁーッ! リシュの手掛かりを、何てことするのよッ!」 「二人とも、下がっていなさい! ここは先生のわしがあれらを退治してみせよう!」 オスマンがその魔法の実力を以てして軟体生物たちを退けようと杖を握り直した。 が、その時に彼の腰から、グギッ、と嫌な音が響いた。 「はがッ! こ、腰が……」 ぎっくり腰であった。さっきのしりもちで痛めてしまったようだ。 才人はついがっくりと肩を落としたが、気を取り直してデルフリンガーを抜いた。 「ルイズは校長先生を連れてここから退避してくれ! 俺が追っ払ってくる!」 「頼んだわ、サイト!」 「すまんのう、サイト君。あいたたた……」 オスマンに肩を貸したルイズが地上への階段まで下がっていくと、才人はデルフリンガーを 構えて一気呵成に軟体生物の群れに斬りかかっていった。 「はああぁぁぁッ!」 ひと纏まりになっている軟体生物たちを袈裟に切り払う才人。すると生物たちは才人を 敵と見なして、一斉に飛びかかってきた! 「うわッ! このぉッ!」 しかしその程度にはひるまない才人は、ガンダールヴの力を発揮して片っ端から軟体生物を 斬り捨てていく。 だがひと際大きな生物を斬ったかと思うと、その生物の三つに分かれた破片はそれぞれが 小さな生物に変化した! 「な、何ッ!?」 しかも三体の生物は寄り集まって、再び元の大きさの生物に合体した。よく見れば、他の生物も それぞれで集まって大きな生物へと合体をしていっている。 「こいつら、一匹一匹が合体して大きくなるのか! それとも一個の生物が分裂してるのか……!?」 驚く才人をデルフリンガーが叱咤した。 「相棒、惑わされるな! 分かれる大きさには限界があるみたいだ。小さい奴から斬っていきゃあ、 いつかは確実に倒し切れる! お前さんの根性を見せてみな!」 「分かった! 根性なら負けないぜ! おおおおおッ!」 鬨の声を上げた才人は助言通りに、小さい生物から着々と撃破していく。その甲斐あって、 軟体生物は少しずつでも数を減らしていく。 しかし軟体生物の方も学習するようだった。バラバラに戦っていては敵わないと見たか、 全個体が一斉に一箇所へと集合していくのだ。 「これは……やばいッ!」 以前としておびただしい量がいる。それらが全て合体するとしたら……すぐに想像がつく。 「ギュイイイイイイイイン!」 果たして全部が合体した軟体生物は、鋭い角と牙、たくましい両腕と大きく開いた口を備えた、 最早ナメクジのような容貌を超えた怪物へと姿を変えた。 これこそが複数の個体が合体し合って一個の巨大生物の姿を形作る、集結怪獣ガミバの真の姿である! 「ギュイイイイイイイイン!」 ガミバは太い腕を猛スピードで才人へ振り下ろす! 「うわあああぁぁぁぁぁぁぁッ!?」 才人は受け止めることはもちろん逃げることも出来ず、呆気なくガミバの手の平の下敷きに なってしまった……。 かと思われたが、ガミバの手が徐々に押し上げられていく。 「ギュイイイイイイイイン!?」 「セェェェアッ!」 手の平を押し返して下から現れたのは、ウルトラマンゼロだ! 才人は押し潰されそうに なったその時に、危ないところでゼロアイの装着をしていたのだ。 『でりゃああああッ!』 ゼロは等身大の状態でウルトラゼロキックを決めた! 飛び蹴りはガミバの喉元に突き刺さり、 派手に転倒させる。 「ギュイイイイイイイイン!」 今の攻撃で驚いたらしいガミバは、その場に穴を穿ってより深い地底へと逃走していく。 だがガミバは地形に影響が出るほどの途方もない量の岩石を食らい、大地震や大地の陥没を 引き起こしてしまう危険な怪獣だ。放っておけば、大惨事が起こりかねない。 「ジュワッ!」 そこでゼロはハルケギニアの安全を守るために、ガミバの後を追いかけて穴に飛び込んでいった。 ゼロは飛びながら徐々に巨大化していき、マグマの川が流れる地底の大空洞に出た時には いつものサイズとなっていた。ガミバの方も、広い空間に出たことで更に巨大化しており、 ゼロを待ち構えていた。 今この地底空間において、ゼロとガミバの決闘が始まる! 『でぇりゃぁッ!』 まずはゼロの先制攻撃だ。瞬時に間合いを詰め、脳天にチョップを叩き込む。 「ギュイイイイイイイイン!」 咆哮を上げるガミバだが、元々軟体生物故か、さほど効いているように見えない。打撃は効果が薄そうだ。 「ギュイイイイイイイイン!」 ガミバからの反撃が来る。開かれた口から黄色い液体がゼロ目掛け吐き出される! 『おっと!』 さっとかわすゼロ。液体は背後の岩壁に掛かると、壁は煙を上げてドロドロに溶けていく。 強力な溶解液、それがガミバの武器だ。 『こいつは食らう訳にはいかねぇな。せぇりゃッ!』 ゼロは溶解液を警戒しながらも、怒濤のラッシュをガミバに叩き込む。その勢いに押され、 ガミバの動きが大きく鈍る。 『これでフィニッシュだぜ!』 そこにゼロはワイドゼロショットを放つ。打撃が効果なくとも、光線で細胞の一片まで 焼き払ってしまえばいいだけのことだ。 だが、ワイドゼロショットが着弾する寸前に、ガミバの身体が無数に分裂して光線をかわした! 『何ッ!?』 分裂したガミバは素早く飛んでゼロの背後に回り込み、そこで再集結して巨大怪獣に戻る。 群体がひと纏まりに合体した怪獣だからこそ出来る荒業だ。 「ギュイイイイイイイイン!」 『うおぉッ!』 振り返ったゼロに、ガミバは口を、ゼロを丸呑みに出来るほどに拡大して食らいついてきた。 ガミバの肉体は本当に自由自在に変化するのであった。 咄嗟に両手と足でガミバの口を抑え、呑まれるのを阻止したゼロだが、マグマの川の方へ 押しやられて、淵に立たされた。このままではマグマの中に突き落とされてしまう! 『くっそ……!』 一転して防戦一方のゼロ。カラータイマーも点滅し始めた。そろそろタイムリミットも近い! 『何のこれしきぃッ! せぇぇぇいッ!』 しかし才人がそうしたように、ゼロも根性を見せた。抑え込まれた状態でエメリウムスラッシュを 発射。ガミバの口の中に! 「ギュイイイイイイイイン!!」 体内に光線を撃たれたガミバは、身体の内側から燃焼を起こす。バタバタもがき苦しみ、 その隙にゼロは脱出した。 炎上していくガミバは悶えながら、自分がマグマの川に転落した。巨体が完全に没し、 二度と上がってこなかった。高熱のマグマの中で燃え尽きたのだろう。 「デュワッ!」 一発逆転、ガミバを倒したゼロは通ってきた穴をそのまま引き返し、元の地下室へと舞い戻っていった。 「ルイズ、校長先生! もう大丈夫ですよ」 ガミバを退治してから、才人は避難させた二人を呼び戻した。オスマンはまだ腰を痛めていたが、 先に箱の方を見てもらった。 と言っても、箱はガミバによって既に跡形もなくバラバラにされてしまっていた。 「あちゃ~……木片しか残ってないよ」 「うぅむ……これではどんなことが記されてあったのかも分からんの」 箱はほとんどが食われてしまってもいるようで、最早修復不可能。リシュの貴重な手掛かりは 完全に潰えてしまったのだった。 「こんなことになるんだったら、リシュを見つけた時によく調べておくんだったわね。もう、 タイミングが悪いわ……」 落胆したルイズがため息を吐く。 『……』 一方で、ゼロが意味ありげに沈黙しているので、才人がそっと尋ねかけた。 「どうした、ゼロ? 何か気になることでも?」 『ああ、いや……』 ゼロは、ルイズの言う通りにガミバ出現がいやにタイミングが悪かったことに気をかけていた。 それは裏を返せば、箱を処分してリシュのことを隠したい者にとってはタイミングがよかったと いうことになる。 しかし仮にそうだったとしたら、その者は自分たちの動向をどうやって把握したのだろうか。 監視されているような気配は微塵も感じなかったが。 『……まさかな』 ゼロはふとリシュの顔を思い返したが、それまでずっと眠っていて、起きてからもずっと 自分たちといたリシュが地底のガミバを動かせるとも考えにくいので、その考えを振り払ったのだった。 「はぁぁ~……。今日は、リシュの方もクリスの方も、何も進展しなかったなぁ……」 夜。ルイズの部屋で、才人が大きなため息を吐いた。 リシュの件は、唯一の明確な手掛かりである箱が破壊されてしまい、他のところを調べても 何もリシュにつながりそうなものは出てこなかった。そしてクリスの方の舞踏会の件は、やはり 生徒たちからの反発が強いのだ。根強く説得すれば理解してもらえるかもしれないが、クリスは いつまでこの学院にいるか分からない身。そうそう時間は掛けられない。 二つも問題を抱えてしまい、しかもどちらも解決の目途が立ちそうにない現状。才人が気苦労を 背負ってしまうのも当然であろう。 「すー……すー……」 その一方で、リシュはもうおねむのようで、ベッドの上に横になってかわいい寝息を立てている。 それを呆れたようにながめるルイズ。 「いいご身分よね。自分のことでわたしたちがどれだけ苦労してるか、分かってるのかしら?」 「小さい子供は遅くまで起きられないのですから、仕方ありませんよ。子供はたくさん寝て 早く大きくなるのが仕事とも言いますし」 肩をすくめたルイズをシエスタがなだめた。 それから悩むのを打ち切った才人が言う。 「俺たちもそろそろ寝るか。うだうだしててもいい考えは思い浮かびそうにもないし、続きは明日、 また日が昇ってからにしよう」 「ええ、そうしましょうか」 「お休みなさいませ、サイトさん、ミス・ヴァリエール」 結局本日は何も解決しなかったが、また明日からがある。翌日に向けて気持ちを一新しようと 才人たちは、この日はおしまいにすることにした……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1178.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 魔法学院の正門を通り、王女達の一行が入ってきた。 生徒達はそれに合わせて、杖を掲げる。 馬車が止まると、召使い達が駆けより、絨毯を降りてくる人物が進むべき道に敷く。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりぃーっ!」 その声に対し、馬車の扉を開いて出てきたのは―― 花にたとえれるような美しい少女ではなく、 灰色のローブに身を包んだやせっぽちの初老の男である。 これには流石の生徒達も失望。あからさまに侮蔑の目をしている。 だが、次に出てきた人物を見て歓声を上げる。 先に衛士が述べたように、彼女がトリステイン王国王女、アンリエッタである。 ブルーはその様子を眺めていた。他の生徒のように熱中して見ているのではなく。 「あれがトリステインの王女か」 隣にいるルイズに一応確認の意で問いかけるが、反応はない。 ルイズは顔を赤くして、何かを見つめていた。 気になり自らもその先へ視線を傾けると、そこには羽帽子を被った貴族の姿があった。 グリフォンにまたがっていた。余り見掛けたことはないが、此方では一般的なのだろうか? その後特におかしい事などは起こらず、夜になった。 「ルイズ、どうかしましたか?」 返事はない。ルイズはあれからずっと変な調子だった。 ベッドに座り込むと俯いたまま出会ったかと思うと、 次には何も言わずに外に出て行き、 帰ってきたら「愛がアップ!」と叫んだり、 そのまま赤い顔をしてベッドに飛び込んだりと、 もはや変というか精神の病を疑うレベルの行動をしていた。 その妙な様子のルイズを眺めていると、ドアがノックされた。 ルージュの声を聞くと、そのドアをノックした人物は 涼しげな感じのする声で言った。 「あ、あれ……?すいません、間違えました」 ドアのまえにいた人物は詫びると、そのまま去ったらしい。 音がなかったので解らなかったが。 そのまま、暫く時間がたつと、再びドアがノックされる。 「開いてますよ」 「すいません、ここはルイズ・フランソワーズの部屋ですよね?」 さっきの人物だったようだ。 中にいる人物も知らずに尋ねてきたのだろうか。 ルイズの方を見ると、なにやらはっとした顔をしていた。 妙な様子はもう無く、立ち上がるとドアに駆けより、開けた。 そこにいたのは頭巾を被った少女だった。 「あなたは」 その少女は大声を上げかけたルイズを、 人差し指を口に当てることで制止し、 マントの内側から杖を取り出すと、それを振った。 光の粉が周囲に舞う。 ルイズはその様子を見て呟いた。 「……ディティクト・マジック?」 「何処に耳が、目があるか解りませんからね」 その少女はそういって、頭巾を下ろす。 そこにあったのは、アンリエッタ王女であった。 「姫殿下!」 ルイズは慌てて膝をつく。 「久しぶりですね、ルイズ・フランソワーズ」 その後の話はよく聞いてなかった。 他人の思い出話など、大抵の場合は他人が聞いてもさして面白くない物である。 さらになにやら友情を深めているのかよくわからない二人の様子を見ていると、 なにやら心が冷静になっていく。 突然、アンリエッタに自分のことが言及されるまで、呆然としていた。 「そこの彼、あなたの恋人なのでしょう? 私ったら懐かしくて、つい粗相をしてしまったみたいね」 「違います、彼は私の使い魔です」 「……使い魔?」 アンリエッタは、此方をじっくりと見てから再び言う。 「人にしか見えませんが」 「人ですから」 ルージュは返す。 そう返すと、アンリエッタはルイズの方を見て笑った。 「ルイズ・フランソワーズ。あなたは昔から少し変わってましたけど、 今もそうみたいね」 それを言うまでは笑っていたが、 ため息をつくとだんだんと表情に影を落とす。 「姫様、どうかなされたんですか?」 「いえ、何でもないわ、嫌だわ、わたくしってば――」 また友情の確かめ合いでも始まるのかと思って、 ルージュは考えることを取り敢えず止めた。 だが、暫くたって妙な流れになってきたので思考を再開した。 どうも、彼女はゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったらしい。 それはアルビオンの反逆勢力たる貴族派、レコンキスタに対抗するための同盟、 それを強固かつ確実な物にするためだという。 だが、その結婚を台無しにしてしまいうる一つの手紙が、 レコンキスタに滅亡寸前まで追いやられている王党派の元にあるらしい。 取り敢えずブルーは言った。 「それを取り返して来いと」 「恥ずかしいことですが、そう言うことになるのでしょう」 「……えーと……ブルー、姫様に失礼な口をきかないで頂戴」 そう言ってから、ルイズは真剣な表情をしてアンリエッタの方に向き直る。 「早速明日の朝にでもここを出発します」 「申し訳ありません。ルイズ・フランソワーズ。この恩には答えなくてはなりませんね」 「姫様、気にしなくて良いと言われたのは姫様でしょう?」 「……そうでしたね。少々お待ちいただけますか?」 というと、ルイズの机の上にあった羊皮紙とペンを使い、 手紙を書き始める。途中、何かを戸惑ったようだった。 ルイズがその様子をじっと見ていた。 手紙を書き終えると彼女はそれをルイズにそれを渡した。 「この手紙を、ウェールズ皇太子に渡してください。 件の手紙を必ずや返していただけるはずです。 そして、これもお持ち下さい」 彼女は自身の右手の薬指から、指輪を外すとそれもルイズに手渡した。 「母君から頂いた『水のルビー』です。 旅の資金が心配ならば、これを路銀に換えてください」 ルイズが頭を下げる。 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。 あなた方の行く先に、始祖の祝福があらんことを祈ります」 薄暗い部屋に小さな音が聞こえる。 締め切られたその部屋は、どこか蒸し暑い。 その部屋のベッドの上に、二人の少女がいた。 少女の片方……緑色の髪をした彼女は、どこか人間離れした色気を放っている。 もしかしたら、この部屋の蒸し暑さには、 彼女のそれが混じっているのかも知れない。 彼女は、もう一人の少女に覆い被さるようにしていた。 そのもう一人の少女はと言えば、 少女と言うには少々幼すぎるかも知れない顔立ちと外見であった。 今は、その頬を朱く染めている。 緑色の髪の彼女――アセルスの手が、 青い髪の少女――タバサの朱くなっている頬に触れる。 タバサの口から言葉にならない声が漏れる。 アセルスはその様子をじっくりと見てから、タバサの頭を愛おしそうに撫でる。 タバサが潤んだ目でアセルスを見つめ返す。 それを妖しい微笑みで返してから、アセルスはタバサの濡 (省略されました。続きが読みたければ人数分ブリューナクください) お解り頂いているとは思うが、全て半妖様の妄想である。 なお、この妄想はキュルケの三角蹴りによって中断される。 本能的にやばいと思ったらしい。 キュルケ、それで正解だ。君は正しいことをした。 「だめね……タバサをあれと一緒の場所に置いておくことは出来ないわ」 しかし、タバサを連れ出そうとしても理由無しに動いてはくれないだろう。 無理矢理連れ出すのも気が引ける。 どうしたものか――そう考えているキュルケの目に、 馬に乗り出掛けようとしている二人組の姿が映った。 「あれはダーリン?……どこかに行くのかしら……そうだわ!」 朝から、ギーシュは剣を振っていた。昨日とは剣を変えてみていた。 冷静に考えたら、ただ振るだけで剣の腕が身につくわけ無いではないか。 トレーニングにはなるかも知れないが。 と言うわけで、ギーシュは図書館で一通り調べ物をしたのだった。 何せ魔法学院の図書館だからそう言う物を探すのは少々骨が折れたが、 探せばある物だ。ついでに、『土』の魔法に関するいくつかの書物も調べた。 その結果として、ある程度の技と、『土』の魔法の応用を身につける事が出来た。 が、そこで止まる。 「ふむ。せっかく身につけたのだから試してみたいが。 まさか決闘をするわけには行くまいしね……ん?あれはルイズとブルーじゃないか」 ルイズとブルーが、馬小屋から馬を連れ出し、なにやら準備をしていた。 どうも遠くに行くようだったが、ふむ、フーケの討伐に行った二人だ。 また学院長から秘密の任務でも請け負ったのだろうか? ギーシュはある一つのことを思いつき、彼女たちに近づいていった。 「ルイズ、アルビオンまではどのぐらいかかるんだ?」 「馬で二日って所ね」 「遠いな」 そんな他愛もない話をしていたら、後ろから声がかかった。 「やあルイズ、またどっかにいくのかね?」 二人が振り返ると、そこには細身の剣を腰にぶら下げたギーシュが居た。 「ギーシュ、何してるのよ」 「いや、どこかに行くのなら、僕も連れて行って欲しいんだ」 「何でよ」 「また秘密の任務でも請け負ったのかと思ってね」 ギーシュがそう言うと、ルイズは慌てて返す 「……そ、そんなわけ無いじゃない。何を言っているのかしら?」 「ふむ。秘密の任務でないなら僕がついて行っても大丈夫な筈だね?」 「だ、だめよ!」 「だが途中まで同行するぐらいなら構わないだろう? 一人では心細いからね」 食い下がるギーシュに、ルイズが言う。 「か、勝手についてくるなら好きにしなさいよ!」 それを聞いて、ギーシュが笑みを浮かべ返す。 「そうかい、ルイズ。 所で、何処まで行くんだい?」 「アルビオンよ」 「へぇ?そんなところまで、準備は出来てるのかい?」 「見て解らない?」 「しかし、アルビオンは今危険なはずだ。 大丈夫なのかね?」 「平気よ」 次に、ギーシュは変わらず自然な口調で聞いた。 「ところで、そんなところまで何をしにいくのかね?」 「手紙を取り返しに……あ」 「ふむ。やはり秘密の任務だったようだね」 ルイズは顔を赤くし、ギーシュは顔をほころばせる。 ブルーの顔には特に変化はなかった。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/167.html
前ページゼロの使い魔(サーヴァント) 「いい朝です」 セイバーは陽光を浴びながら伸びをした。 サーヴァントであるこの身には、暑いの寒いのはたいした意味はないが――と一人ごちながらも、彼女は思う。 やはり、朝日の中に立つのは気分がいい。 そこがかつて自分がいた時代であろうと、英霊として呼ばれた時代であろうと。 まったく見知らぬ異世界であろうと、だ。 鎧を消してドレス姿になったセイバーは、脇に彼女のマスターの衣服の入った籠を抱え、何処か感慨深そうに歩いていた。 平行世界でもなくて完全な異世界……ここはきっと第二魔法も届かない場所だ。 恐らく二度と凛にも士郎にも会えない――というのに、どうしてか口元に微笑が浮かんだ。 昨晩の、あの新しいマスターの様子を思い出していたのだった。 ◆ ◆ ◆ 「改めてマスターである貴女だけに名乗ります。 わたしの名はアルトリア・ペンドラゴン。 セイバーとは剣士の意です。剣を得意とする者の頂点に立つが故に名乗ることを許された称号――のようなものだと思ってください」 マスターであるルイズの部屋についてから、セイバーは椅子に座り、説明する。 説明するとは言っても、何処から何処まで話せばいいのか彼女自身にもよく解らなかった。聖杯戦争の時はその時代で生きていくための常識などの基本知識が与えられていたが、このたびの召喚ではさすがにそれはないようだった。 言葉が通じているだけでもありがたいので、そこまで要求するのは贅沢であろうとは思うのだが、せめて一般常識程度のことはあらかじめ知っておきたかったというのがセイバーの偽らざる心情だ。 だから、説明とは言いながらも、互いに質問をしながらの問答のようなものとなってしまったのは必然だった。 ルイズにしてから、見るからに身分の高そうな騎士が召喚ゲートをくぐるなどというのがどういうことなのか問い詰めたいところであった。 それでもあまりそういう過去を問い詰めるのも貴族としてどうかと思ったりするが、しかし、まったく知らないというのでは話にならない。 だから、差しさわりのない範囲でも情報を収集しようと言葉を重ねることになる。 まず、自分は人間ではない、ということをセイバーがいうと「亜人なの?」とルイズは目を丸くしてまじまじと見つめてきた。 「エルフ――ではないわよね」 「エルフ? まあ違いますが、まったく縁がないわけではありません」 泉の妖精とかそういう意味で言ったのだが、ルイズの顔には明らかに驚愕と、そして恐怖が浮かんだ。 何か迂闊なことを言ったか、とセイバーは思ったがあえてそのことについては問わず、そもそも、と言葉を継いで。 「わたしはこの世界の人間ではありません」 言った。 ルイズがその時にどういう顔をしたかというと―― (はあ? 何いってんだコイツ?) といわんばかりの怪訝な表情であった。 セイバーはかいつまんで話をした。 曰く。 「わたしはここではないところからきました」 「そこの世界では魔術を使う人間はいないでもないが、数少ない」 「そして自分はそこの世界で英霊と呼ばれていて、ちょっと前まである魔術師の使い魔をしていた」 ということである。 当然のことであるが、ルイズがそれらをまともに受け取ったかというと、セイバーの目から見ても「全然信じてませんね」と思わざるをえない顔をしていた。 実際に信じてなかった。 とはいえ、ルイズもセイバーが好んで嘘を言うような人間にも思えなかったから、何かの事情があってやむをえずに適当なことを言っているのだと判断した。 このあたりはコルベールの思考と同様の展開である。ただ、 (きっと使い魔になってしまったことが恥ずかしくて、本当のことは言えないのね) という、微妙に師ともずれた結論に至ったが。 多分、その名を聞けば誰もが知る……とまではいかなくても、かなり有名な貴族なのだろうとルイズは思った。 だからこのような荒唐無稽な話をするのだろうと。 かなり失礼な考えではあるが、彼女の中の常識などから鑑みてこのようなものになるのは仕方がなかった。 (にしてもペンドラゴン……アルビオン風の姓ね) 正しくアルビオン風だと、アルトリア・オブ・ペンドラゴンになるのだけど。 あるいはアルビオンの王家に連なる貴族なのかもしれない。そういえば、ちょっと前に廃絶されたアルビオンの大公家には公にはできない娘がいるという噂を聞いたことがあるが……さすがにそれはあるまい。 いずれ必要な時期がきたのなら話してくれるのだろうとルイズは判断し、大物ぶって鷹揚に頷く。 「また細かい話は明日になって改めて聞かせてもらうけど」 「はい」 「あなたは、本当に私の使い魔をやってくれるの?」 そうだ。 それだけがルイズの一番気になることだった。 たとえセイバーが身分を隠した貴族であるとか、あるいはそうでないとしても、とにかく問題になるのはそのことである。 何せ使い魔というのは主人と一心同体。主人の分身である存在だ。今まで人間が使い魔になったという話は聞いたこともないが、基本的な役目はそう変わらないはずだ。 つまり。 主人の目となり耳となってくれたり。 主人のために薬草を探したり。 主人のを守る護衛となってくれる―― 使い魔というのはそういう存在なのである。 (そういうこと、仮にも人間にやらせていいのかしら) ここでもしも召喚されてきたのがただの平民の生意気な口でしゃべる男の子だったりしたら、ルイズもそういう風には考えないのだろうが、彼女の召喚に応えたのはどうみても貴族かそれに連なりそうな、あるいはそれ以上の威厳を持ったセイバーである。 どうしてもそんなことを考えてしまうのであった。 「問題ありません」 そんなルイズの葛藤などどうでもいいように、セイバーはいう。 「先ほども申しましたが、この身はすでにサーヴァントです。それが必要となればそうします。貴方は貴方にとって相応しいと思える選択をすればいいのです」 「……うん、まあ、あなたがそういうのならそれでいいんだけど……」 セイバーにまっすぐに目を向けられたが、ルイズはついと目を逸らしてしまった。 それで、その日に聞くべきことは終わってしまった。 あとは寝る場所をどうするのかという問題があったが、さすがに貴族を藁の上に寝させるという訳にもいかないので、「申し訳ないけど」と言い添えて自分と一緒のベットで眠るように進めた。 ちなみに服は自分で着た。 そうして横になって、自分のすぐ側にいるセイバーに話しかけることもできず、なかなか緊張も解けなかったルイズだが、やがて今日一日の疲労がたまったのか、急激に眠気に襲われ、落ちるように意識が途切れた。 その直前に、 (私にとって相応しい選択って何だろう?) そんなことを思った。 答えはでなかった。 ◆ ◆ ◆ 「マスターが起きる前に洗濯を済ませてしまいましょう」 とセイバーが思ったのは、いつもの習慣であったりする。 つい何十時間か前までいた世界では、彼女は自分の主人の身の回りの家事の一部を担当していた。 一部というのは大方はマスターであるところの遠坂凛が自分でやってしまったからである。あかいあくまとか色々といわれているが、凛は魔術師として以上に人間として、女性としても非常に高水準のスキルを会得していた。 セイバーもその凛に仕えながらその技を磨いた――と言いたいところだが、英霊という存在は基本的に「終わった」存在である。 受肉などをすれば話は別かもしれないが、サーヴァントのままでは凛並みの家事能力を得るというのは不可能であった。 それでもまあ、一定の手順をこなす程度のことならできる。 洗濯物を洗ったり干したり、お風呂掃除をしたり料理の材料を買い出したりとか。 そういうことはセイバーの仕事だった。 正直、剣の英霊がするようなことではないとも思うのだが、裏の世界では色々とあるとはいえ、世界は基本的に平和である。 戦う以外の術をほとんど知らない彼女にしてみたら、それはそれで新鮮で何にも変え難い大切なことなのであった。 で。 現在は異世界であるところのハルケギニアで、籠を持って洗い場を探している。 『……いや、あなたに雑事なんてさせるわけにはいかないと思う……』 ルイズは昨晩にそういうことを言っていたのだが、そこのあたりはやんわりと自分の主張を押し通させてもらうことにした。 使い魔として召喚されておいて食っちゃ寝生活に甘んじるわけにはいかない、というのがセイバーの主張であった。 (とりあえず、ゆっくりとこの世界に慣れましょう) 洗い場は適当に歩いていたら見つかった。 そこでしゃがんで籠の中身を取り出す。 絹製の下着だ。 この世界にも蚕はいるのか、と思った。 「懐かしいですね……見習い騎士だった時代は、こうして手洗いをしていたものですが……」 ひとりごちながら、ドレスの裾を捲くる。 半ば霊体の服であるから、別に濡れようと汚れようとたいした問題にはならない。 しかしそのままでいては見ている人間に訝られよう――という判断があった。 ドレス姿で洗濯をしているというのがそもそもありえないということにまでは思いいたらない辺り、彼女の世慣れてなさが知れる。 とにかくそんなこんなで洗濯物を出していちいち丁寧に揉み洗いする。 かつてブリテンの見習い騎士時代では、このような上等な服を扱ったことなどはさすがにない。 ないのだが、手触りからしても柔らかく、繊細に扱わなければいけないものだという程度のことは判断がついた。 それに見習い騎士だった時代のことを思い出せば、特にこのような上等な絹の下着などというものは扱わせてもらえなかったということも覚えている。 専門の人間が必要なのだ。 それはその時代では絹というのが上等すぎるものであったからではあるが。 「あー、ダメですよ、そんな乱暴に扱ったら」 声がした。 反射的に立ち上がり、振り向いた。 「シロウ――」 どうしてか、そう言ってしまった。 言ってから、セイバーは困惑する。 そこにいたのはメイドだった。 年の頃は十五歳かその前後の、黒髪の少女だ。 (そういえば、マスターはそのあたりにいるメイドにでも任せてしまえばいいと、そうもいってたが) 来る途中に出会わなかった。だから自分で手洗いすることに決めたのだが。 メイドの少女は、首を傾げる。 「しろう?」 「いえ、申し訳ございません」 貴女が――――何、というべきなのだろうか? どうして自分がシロウという、かつての自分の主の名前を口にしてしまったのか、その理由がよく解らない。本当に解らない。 この黒髪の少女を他の誰かに誤認するとなると、それはシロウの師匠であり、彼女の先日までのマスターであるリンの方ではないだろうか。 困惑しているセイバーに、少女メイドはさらに首を傾げて。 「誰かに似ていましたか?」 と聞いた。 「――――ええ」 どう話していいのかも解らないので、セイバーはそう答えておいた。 「少し、私の故郷の知り合いに似ています」 「そうなんですか?」 「本当に」 まったくの嘘だ。 少女のつややかな黒髪は、確かに何処かリンに似ている。 少女の目元の形は、シロウに似てなくもない。 だけど、それだけだ。 もっというのなら、仮にシロウやリンに似ていたとしても、二人共故郷の人たちではない。 彼女の故郷はこの世界にはないし、さらにいうのならば時代も違っている。 あそこに還る時があるとしたら、彼女がこのサーヴァントとしての現身を失った時だろう。 それにしたって、この異世界からあのカムランの丘へと戻ることがあるのか、それすらも解らないのだけど。 少女は何か納得いったように何度も頷き。 「アルビオンにも、親戚はいた気はするし――」 「まってください」 セイバーは言葉を遮った。 「アルビオンといいましたか?」 「え――違うんですか? 何かアルビオンからの亡命貴族が昨晩こられたという噂話をきいてて」 「いや、そうではなく――アルビオン――ここにもあるというのですか!?」 烈しく詰め寄られ、少女は困惑したように後ろに下がる。 「アルビオンはありますよ?えーと、他にも、あるんでしょうか? 私はその、学がないので……読み書きくらいはできるんですが……」 「いえ、失礼」 セイバーは我に返った。 (アルビオンという名に、反応してしまった) それは、彼女の故郷である大ブリテン島の古名だ。 (ここは、遠くとも平行世界なのか? あるいはだとしたら――) 少しだけ考え、しかし彼女は首を振った。 今、それはさほど重要ではないと思えた。 それよりも。 「アルビオンの亡命貴族、と私は思われているんですか?」 「えーと……」 少女はおずおずと語りはじめた。 アルビオンは最近になって内戦が勃発している。それで多くの貴族が領地を失い、しかし王家の庇護を受けようにも反乱軍の勢力が日増しに強くなる中、それはとてもできず―― 結構な数のアルビオン貴族が国を捨て、各地に亡命しているのだという。 そして先日の召喚の儀式に騎士らしい女性が現れて、それはもしかしたらアルビオンからの亡命貴族なのではないか―― というような、そんな噂が学院内部に出回っているのだとか。 召喚の儀式が行われたのが昨日で、その夜に食堂を中心にその騎士?の正体とは何かを詮索する会話があり、結構みんなそれが盛り上がったのである。 ちなみにルイズが歩いて学院に戻った時は、食堂にはいかずに自室に直接帰っている。 だからルイズもセイバーも、自分たちがかなり適当な、それでいてそれらしい説得力のある物語をみなにでっち上げられているなどということはまったく知らなかったのだった。 「なるほど……」 そう頷きながらも、セイバーはどう対処すればいいのだろうかと考えてみた。 (まるで見当がつかない) とりあえずマスターに相談をして―― 「……そろそろ、マスターを起こさなければならない頃合いですね」 いつの間にか結構な時間が経過していた。 「仕方ありません。マスターの衣類の洗濯、頼んでよろしいですか?」 「あ、はい。お任せください」 「あなたに感謝を」 セイバーは胸に手をあてながらそう言って、ここまできた道を辿って女子寮へと帰ろうとして。 脚を止め。 振り向いた。 「すみません。貴女のお名前を聞いていなかった」 「あ、そんなことは――」 「私の名前は、セイバーです」 少女の目が、大きく広がった。 セイバーは何処か怪訝そうに目を細めたが。 「貴女のお名前は?」 「わたしは、」 どうしてか、少女は微かに逡巡して。 「シエスタです」 そう言った。 前ページゼロの使い魔(サーヴァント)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9230.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十九話「あっ!ドラゴンもグリフォンも氷になった!!」 ミニ宇宙人ポール星人 隕石小珍獣ミーニン 凍結怪獣ガンダー 冷凍怪獣マーゴドン 登場 才人がふと目を開けると……自分が燃え盛る炎の中にいるのが分かった。 『な、何だこれ!? 俺は一体どうしたんだ……!』 仰天するものの、炎に囲まれているにも関わらず全く熱さを感じず、火傷もないことを すぐに把握した。しかも、自分の姿はグネグネと揺れ動いている。 『これは何事なんだ……?』 『地球人、ヒラガサイト! 聞こえているかね?』 戸惑う才人の目の前に、謎の三人の宇宙人のシルエットが現れる。手の平の上に乗ってしまいそうなほどに 異様に小さな体躯で、三角形状の頭部に直接手足が生えているような、見るからの異形だ。 才人はすぐに問う。 『お前たちは誰だ!』 『我々はポール星人! 過去に二度ばかり地球を氷詰めにしてやったことがある』 ポール星人。それはかつてウルトラ警備隊が冷凍怪獣ガンダーによって絶体絶命の危機に陥った際に、 隊員の一人が幻覚の中で目にしたという、ガンダーの黒幕の宇宙人だ。地球の氷河期は、このポール星人が 引き起こしたものだと彼らは語った。しかしその隊員が幻覚でしか目撃しておらず、実在の証拠が一つも ないので、その存在は大半の人間から疑われている。才人も噂でしか名前を聞いたことがなかった。 『お前たちも侵略が目的か!』 才人が問い詰めると、ポール星人は高笑いを発した。 『ハッハッハッ! そんな低俗なことに興味はない。我々の目的は、人間への挑戦! 我々はこの ハルケギニアに氷河時代を迎えさせる!』 『何だって!?』 『ハルケギニア上の生きとし生けるものが、全て氷の中に閉じ込められてしまうのだ! もちろん、お前さんも一緒だ! 寒い思いをするがいい!』 『そんなこと、ウルティメイトフォースゼロが許すものか!』 と告げる才人だが、ポール星人はまるで意に介さなかった。 『そんな奴らは、我々の敵ではない。言っただろう、我々は人間に挑戦するのだと!』 『どういうことだ!?』 『我々はかつて地球に三度目の氷河期をもたらそうとした。作戦は完璧だった! しかし我々は負けた。 ウルトラ戦士にではない。地球人の忍耐! 人間の持つ使命感に負けたのだ! だから、今度は人間に リベンジする! そう、地球人のヒラガサイト、君にだ!』 『な、何だって……!?』 唖然とする才人。自分が地球人の代表として、宇宙人と戦うのか。そんなことが出来るのか。 『我々の作戦は最早止めることは出来ない。ハルケギニアを氷の星にしたくなければ、我々の仕掛ける 勝負に勝ってみせることだな、ハッハッハッハッ……!』 そう言い残したポール星人の声がだんだんと遠ざかっていく。 『ま、待て! そんな勝手なことは……!』 許さない、と言いかけた才人だったが、それを言い放つだけの自信が今の彼にはなかった。 やがて炎の光景が薄れていき……。 「おいサイト! 起きやがれ! 朝だぜぇッ!」 グレンの大音量の呼び声によって、才人は目を開いた。 辺りを見回して状況を把握する。昨晩と同じ部屋の景色、同じベッド。どうやら先ほどまでのことは、 夢の中の出来事だったみたいだ。 「さぁ、シャキッとしな! 今日からお前の特訓を始めるぜ! すぐに支度するんだな! 朝食を忘れるなよ! 腹ペコのままじゃ力が出ねぇぞ!」 と言われて、才人は昨日決定したことを思い出した。今日から、グレンに鍛錬をつけてもらうことに なったのだった。とはいえ……。 「まだ外暗いじゃんかよ……」 「なーに言ってやがる! 特訓ってのは早起きしてやるもんだ!」 才人の反論はばっさりと切って捨て、グレンは彼を引っ張り出すように外へ連れていった。 「よぉし、まずは身体を動かすぜ。最初は腕立て百回からだ!」 グレンが何のためらいもなくそう言うので、才人は思わず目を見張った。 「いきなり百回!? そんな、俺始めたばっかりなんだから、もうちょっとお手柔らかに……」 「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇっての! 苦しくなきゃ訓練じゃねぇよ!」 しかし才人の言い分が超熱血のグレンに通るはずもなく、否応なくやらされる羽目になった。 腕立て百回の後は腹筋や背筋、グレンに延々叱咤されての走り込みなど……。とにかく基礎訓練を みっちりとやらされた。朝早くから始めたにも関わらず、終わる頃には日が頭の天辺まで昇っていた。 さすがにへばる才人だが、グレンの熱血っぷりはそれで留まらなかった。 「サイト! へたれてる暇はねぇぞ! こんなのは準備運動だ! ここからが本番よ!」 「えぇ!?」 「本番は実戦形式の手合わせだぜ! さぁ、どこからでも掛かってこいや!」 自分に殴りかかってくるよう手招きするグレン。さすがに待ったをかける才人。 「ち、ちょっと! 素振りとか、技の稽古とかないの!? まだ戦い方を全然習ってないんだけど……! それに俺はこれでも剣士だから、素手の戦いを習っても……」 するとグレンはこう返答する。 「実戦で使える技ってぇのはな、戦いの中で身につくもんだ! それに戦いの基本は格闘だぜ! 剣も格闘が出来るようになってから様になるってもんよ!」 「ほんとかよ……」 「ほんとだっつぅの! 俺たちいつも殴り合いで訓練してるからな! 分かったらとっとと来な!」 とにもかくにも、手合わせをしなくてはいけないみたいだ。とんでもない人を先生にしてしまったと、 才人は若干後悔した。 それでもグレンに遮二無二殴りかかっていくが……拳を突き出す前に殴り返されて転倒した。 「そっちから手を出してくるのかよ!」 「あったり前だろぉ!? 殴られるのを待ってる奴なんかいるかよ! さぁ、一発やられただけで 寝転んでんじゃねぇぜ! これがホントの戦いだったらお前は死んでるぞ! とっとと立ち上がって もう一度掛かってこいやぁ!」 「くっそぉぉぉ……こうなりゃとことんやってやるぜッ!」 才人は半ば自棄になり、グレンに挑んでいってはあしらわれるを繰り返す羽目になった。 ぶつかり稽古の中で、グレンから様々な指摘をされる。 「駄目だ駄目だ、そんなへっぴり腰じゃ! 男はもっとどっしりと構えるもんだ! 腰から拳に力を乗せろッ!」 「俺の腕の動きだけを見るんじゃねぇ! 相手の全身を見るんだ! そうすりゃ敵の動きも見えてくる!」 「動きが見えたら、それに合わせて自分も動くようにするんだ! 一つの戦い方だけじゃ 到底やってけねぇぜ! やり方? そういうのは教わるんじゃなくて自分で感じ取るもんだぜぇッ!」 グレンのしごきは本当に辛く苦しいもので、才人はどんどんとフラフラになっていく。 「はぁ、はぁ……薄々分かってたけど、本当に無茶させるな……」 「こんなのゼロのしごきに比べりゃ遊びみたいなもんだぜ? あいつ人と手首をつないだ状態で 崖登りさせたりとかするからな!」 「えっマジ!?」 ゼロの意外な一面を知ったりしながらも、才人は殴り合いの中で次第に戦い方というものを その身に吸収していった。 また、グレンは稽古の最中に、戦いに重要なことも教えてくれた。 「いいか、戦いで大事なのはいくつかあるが、一番は勢いだぜ! どんな奴が敵だろうと、 勢いのある方が戦いで勝つッ!」 「ほ、本当なのか……?」 「マジだぜ! 戦いには流れってもんが確かにあるのよ。その流れを掴んで勢いを出せれば、 多少強引にでも相手をねじ伏せられる! 逆にどんな力を持ってようと、勢いがない奴は 相手に押されちまう! どんな時も勢いを止めないことを忘れるなッ!」 手合わせという名の殴り合いは、小休止を挟みながらも夜遅くまで続いた。日が完全に 暮れた頃になって初めて才人は解放された。 「よぉし、今日はここまでにしようか。夜はしっかりと休んで体力を戻すんだぜ。明日も 朝早くから始めるからな!」 「あ、ありがとうございましたぁ……」 すっかりグロッキーの才人だが、礼を言うことだけはどうにか出来た。 汗だくの才人に、タオルが差し出された。 「使って」 タオルを持っているのはティファニアだった。上半身裸の才人を見るのが恥ずかしいのか、 頬を染めて横を向いている。 「ありがとう」 タオルを受け取って身体を拭く才人に、ティファニアが話しかける。 「特訓をしてるところ、何度か見学したけど……あの人、ほんとに厳しいのね。ああいうのを、 鬼教官って言うのかしら」 「そうだね。でも、お陰で自分がすごい早さで強くなってるような気がするよ。そこは感謝しなきゃな」 と語る才人の顔をまじまじと見つめるティファニア。 「どうしたの?」 「サイト……どうしてそんなに頑張れるの? あの人の課す特訓、いくら何でも無茶苦茶だわ。 一日中殴り合いさせるなんて……。わたしにはとても無理。いいえ、大の男の人でも根を上げる くらいだと思う。それなのに、あなたのどこからそんな力が湧いてくるの?」 その質問に、才人はしばし考えた後、次のように答えた。 「尊敬する仲間の頑張るところを、ずっと近くで見てたからかな……」 「仲間?」 「ああ。今は……側にはいないんだけどな、俺にはとても頼れる仲間がいるんだ。その人は、 どんな絶望的な逆境に置かれても、絶対に諦めることはなかった。そして懸命に戦い続けることで、 何度も奇跡の逆転を掴み取ってた。その後ろ姿を見てて、あの人みたいになりたいと心の底から 思ってるから……俺も、頑張らなきゃって思いが湧いて出てくるんだよ」 そう語る才人を、ティファニアは感銘を覚えたように見つめる。 「あなたって、偉いのね」 「こんなの、偉くなんてねえよ。単なる憧れさ」 「その思いでどんなに苦しくても頑張れてるじゃない。偉いわ。わたしね……」 ティファニアは、言葉を選ぶように、ゆっくりと言った。 「わたし、何かを一生懸命に頑張ったことってなかった。やりたいことはいっぱいあるはずなのに、 ただぼんやりと災いのない場所で暮らしてただけ」 「いいんじゃないの。大変だったんだから」 「ううん。それはなんか、逃げてるって気がする」 ティファニアは才人の手を握った。 「ありがとうサイト。わたし、もっといろんなものが見てみたくなった。昔住んでたお屋敷と……、 この村のことしか知らないから、まずは世界を見てみたい。世界って、いやなことばかりじゃない。 楽しいことも、素敵なこともきっとあるんじゃないかって……。あなたを見てたら、そう思うようになったわ」 才人は顔を赤らめた。 「ねえ、お友だちになってくれる? わたしのはじめての……、お友だち」 「いいよ」 「あなたが村を出るときには、記憶を消そうと思っていたけど……、消さない。お友だちにはずっと 覚えておいて欲しいもの」 「そっか」 二人は友情の誓いを結び合い、夕食を取ることにした。しかしその寸前、ふと才人は頭をひねる。 「そういえば……何かを忘れてるような気が……」 グレンの非常に厳しい訓練の中で、才人の頭からは今朝見た夢の内容がすっかりと飛んでしまっていた。 才人の特訓は三日間、ひたすら殴り合う形で続いた。才人にとっては地獄の責め苦が生ぬるく 思えるような過酷な時間であったが、グレンがつきっきりで指導し続けてくれたことで、 たった三日の中でめきめきと力をつけていった。 そして特訓の中で、グレンは才人にこんなことを聞いていた。 「なぁサイト、お前俺の旅についてきたいって言ったけど、ルイズの嬢ちゃんのところに 戻るつもりはほんとにないのか?」 「え?」 聞かれた才人は、ややうつむきながら肯定する。 「ああ……。俺はもうあいつの使い魔じゃないし、ゼロに変身も出来ないしな……。たとえどんなに 鍛えたところで、巨大怪獣や宇宙人はもちろん、ただの人間じゃメイジにもてんで敵わないだろ」 才人はそう思っていた。ギーシュ並みの素人ならともかく、ワルドのような本職の戦士のメイジには、 魔法という大きな武器が相手にある以上は、ルイズを守りながら戦うなんて無理だ。 「ルイズに敵が多い以上、あいつの足を引っ張る訳にはいかないんだよ……」 と言うと、グレンは真顔でこう告げてきた。 「そいつは違うだろ」 「え……?」 「力がどうとか、そういうことじゃねぇ。要はお前がどうしたいかっていう気持ちの問題だろうが。 お前、ほんとにこのまんまルイズに会わず終いでいいのか? きっと後悔すると思うぜ」 「そんな、気持ちがあったところで……」 「いいや、物事の一番大事なもんは、他ならぬ気持ちだぜ。どんな力があろうと、何の気持ちも ない奴には何にも始められねぇし、何にも成し遂げられねぇ。力がないから出来ねぇっていうのは、 どんなに言い繕っても甘えの言い訳だって俺は思うな」 「……」 「強い気持ちがありゃあ、何だってやれるはずだぜ」 そう説得された才人は、自分の本当にしたいことを考え直した。 しかし、その時には答えは出てこなかった。 そして四日目の朝……事件は起こった。 「は……はっくしょんッ! うぅ、寒ッ!」 今日も今日とて朝早くから特訓に励もうとした才人とグレンだったが、今日ばかりはそれは出来なかった。 何故なら、家の外に猛吹雪が吹き荒れているからだ。 「テファお姉ちゃん……寒い……」 「キュウ……」 「みんな、しっかり……!」 部屋にはウエストウッド村中の子供たちが集まっていた。ミーニンを中心におしくらまんじゅうのように 固まり、ありったけの毛布にくるまって暖を取ろうとしている。しかしそこまでやっても、子供には 耐えがたいほどの寒波が襲っているのだ。 「くっそぅ、どれだけ薪をくべても全然足りねぇぜ!」 グレンが暖炉に薪を放り続けて火力を強めているが、それでも寒さを追いやることは出来ない。 それどころか、家自体が吹雪の前に吹き飛んでしまいそうであった。天井がミシミシ音を立てる毎に、 子供たちが怯える。 「おかしいわ……いくら冬だからって、この時期にこんな大きな吹雪が発生するなんて……」 「そうか。異常気象って奴だな……」 ティファニアのひと言に、才人が深刻な顔でつぶやいた。雪山でも吹雪に遭遇したが、 今外で起きているこれは、それを上回るほどの異常な規模であった。 グレンも才人の意見に同意する。 「こいつはただごとじゃねぇぜ……昨日までは荒天の気配なんて全然なかったのに、こんなことに なるなんざ。何か原因があると思うな」 「でも原因ったって、外は真っ暗で何も見えないし……。デルフ、何か見えないか?」 「無茶言うなよ。伝説の剣たって、透視が出来る訳じゃねえんだ」 グレン、才人、デルフリンガーは窓から外を眺めるが、太陽の光は完全に閉ざされているので、 全く遠くが見通せない。しかし、 「……いや待った。今何か、変な音が聞こえなかったか?」 「確かに、風の音に紛れて何かが聞こえた気がするな。何かの動物のうなり声みてぇな……」 デルフリンガーの問いかけに、グレンが重々しい表情でうなずいた。 すると彼らの会話に合わせたかのように、吹雪が弱まって視界が開けていく。……いや、 この急激な天候の変化は不自然だ。まるで、「意図的に視界を開けている」ような……。 「プップロオオオオオオ!」 そして明らかに風と雪の音ではない音が、才人やティファニアたちの耳にもはっきりと届いた。 鳥とも、獣ともつかない異様な鳴き声だ。 「わああああッ!」 「お姉ちゃん、怖いッ!」 子供たちはますます怖がり、ティファニアが懸命に慰めている。 一方で窓の外の景色を覗く才人たちの目に、アルビオンの大地を覆い尽くした雪原の上に、 巨大生物がそそり立っている光景が飛び込んできた。 「プップロオオオオオオ!」 「あ、あいつは!!」 驚愕する才人。雪原の大怪獣……カタツムリのように突き出た目玉、たらこのような唇、 逆三角形状の翼、ドリル状の指を持ったその容姿は、凍結怪獣ガンダーのものであった。 ガンダーには吹雪を起こす能力がある。この異常気象の原因は、奴に相違ないだろう。 そしてガンダーといえば、あのポール星人と同時に現れ、ポール星人が操っていたという怪獣。 ということは、あの夢はただの夢ではなかったのだ! これはポール星人による、才人への挑戦なのだ! 「プップロオオオオオオ!」 荒れ狂う吹雪の中に仁王立ちするガンダーの姿を、各国の竜騎士、魔法騎士で構成された 混成部隊も確認していた。折しも今は戦争後の調停を執り行う諸国会議の最中。しかし突然 アルビオン全土を覆う規模の異常な猛吹雪が発生したので、急遽原因を究明する調査団が 結成されたのだった。 「やはり怪獣の仕業だったか……。ハルケギニア諸国の王が一堂に会されたこの時期に、 これ以上の狼藉は許さんぞ!」 トリステインの部隊の隊長が早速、部下たちに攻撃の合図を出した。自分たちだけの力で 怪獣を倒すことで、会議でも有利になろうという魂胆も含まれた決断だった。幸い、万一の時に 備えて対怪獣用兵器を用意してきている。 「如何にも火に弱そうじゃないか。この特製火石をお見舞いしてやる!」 グリフォンに跨った騎士二名が、改造ベムスターにも使用した巨大火石を運んできた。 それをガンダーの頭部に落として炸裂させ、一気に仕留める算段だ。 しかしその時、騎士たちに向けて一層強烈な冷気が襲いかかってきた! 騎士たちがみるみる内に 凍りついていく。 「ぐわぁぁぁぁッ!? な、何事だ!?」 ガンダーの反撃か。いや、それは違う。ガンダーはそっぽを向いているではないか。それに冷気は 別方向から飛んできている。 慌てて振り返った騎士たちは、冷気を放出している犯人の姿を目撃した。 「ガオオオオオオオオ!」 真っ白い毛で全身を覆った、翼の生えたマンモスのような怪獣。それは恐るべき大怪獣マーゴドンであった! 冷凍怪獣の中では最大級の能力の高さを誇り、いくつもの惑星を氷に閉ざして生物を死滅させた、まさしく 悪魔の如き怪獣なのだ! 「ほ、他にも怪獣がいたのか!」 マーゴドンは全身から冷気を噴出している。その冷気が騎士たちを纏めて窮地に追いやる! 「ぐわああああぁぁぁぁぁッ! こ、このままでは全滅だ! 奴に火石を食らわせろぉ!」 隊長が苦しみながらも指示を出したが、それは叶わなかった。 「だ、駄目です! 火石まで凍りついて、起爆できませんッ!」 「そ、そんな馬鹿な!? わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 猛烈な冷凍ガスを前にして、騎士たちは抗うことすら出来ずに凍結していく。騎士だけではない。 ドラゴンも、グリフォンもたちまちの内に凍りつき、雪に覆われた大地に向けて真っ逆さまに転落していった。 ハルケギニア各国の精鋭部隊が、たった一瞬の内に全滅してしまったのだった。 恐るべきポール星人の挑戦! ガンダーの、マーゴドンの冷たき脅威! アルビオンは、 いやハルケギニアそのものが、氷河期の危機に見舞われたのだ! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9284.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十四話「再会の姫」 地殻怪地底獣ティグリス 登場 剣と魔法の世界ハルケギニアで、侍の格好をした奇妙奇天烈な姫君、クリスティナ・ヴァーサ・ リクセル・オクセンシェルナがトリステイン魔法学院にやってきた翌日。クリスは正式にルイズらの クラスに編入を果たした。生徒たちは当然ながら、見たこともない出で立ちで、デバンという奇怪な 生物を使い魔にしているクリスに奇異の目を向けていた。 そして同日、クリスはアンリエッタへと、トリステインの魔法学院への留学に際して便宜を 図ってもらったことの礼を言うために、トリスタニアの王宮へと向かうこととなった。そして 王宮までの案内兼護衛役として、アンリエッタと特に親しい間柄のルイズと才人が同行することとなった。 そういうことで現在、ルイズたち一行はトリスタニアへと足を運んでいた。 「ああ、クリス! それにルイズと、サイトさんも! 来てくれたのね!」 王宮のアンリエッタへのお目通りが認可され、彼女の私室で対面すると、アンリエッタは 弾んだ声を出して一行を歓迎した。 「アンリエッタ女王陛下もご機嫌麗しく。お目通り感謝致します」 「ふふッ! そんなに畏まらなくていいのよ。いま、ここにはわたくししかいませんもの」 クリスが恭しく頭を下げると、アンリエッタはおかしそうにそう言った。 「改めて、ようこそ、トリステイン王国へ。歓迎するわ、わたくしのお友達、クリス」 「……ははッ!」 アンリエッタが「友達」と呼ぶと、クリスもおかしそうに笑った。 「そうだな、小うるさい皆もいないし堅苦しいことは抜きにしよう。アンリエッタ、この度は 本当に世話になった。お陰で学院での生活も不自由なく送れる」 「いいえ、わたくしは何も。あなたの人徳よ」 クリスとアンリエッタが対等に言葉を交わす様子を目の当たりにして、クリスの後方に 控えるルイズがぽつりとつぶやいた。 「クリス、ほんとに姫さまのご友人だったのね……」 すかさず才人が突っ込む。 「何だルイズ、信じてなかったのか?」 「まぁ、正直に言うと、半信半疑だったわね。だって、姫さまとクリスのイメージは、今一つ 結びつかなかったんだもの」 「へぇ。ま、気持ちは分からなくもないけどな」 かく言う才人だって、クリスがアンリエッタの友と自称してから、こうして直に二人の関係を 目にするまでにわかに信じられなかった。絵に描いたようなファンタジーのお姫さまのアンリエッタと、 クリスはある意味で対極だったのだから、本心から信じられないのも無理のないことなのかもしれない。 クリスからお礼を告げられたアンリエッタは、次にルイズと才人の方を向いた。 「ルイズ、わたくしの元までクリスを連れてきてくれたこと、感謝します。わたくしから 改めて紹介するけれど、クリスはわたくしの数少ない対等な立場のお友達なの。留学中、 どうかクリスのことをお願いするわね」 「は、はい! 姫さま、ご安心下さい。不肖ルイズ・フランソワーズ、どんな時もクリスティナ・ リクセル姫のお力になることを姫さまに誓います」 ルイズはその場に片膝を突いて頭を垂れ、アンリエッタに約束した。 だが肝心のクリスは、ルイズにこんなことを言う。 「ルイズ、わたしのことはクリスでいい。学院では身分に関係なく、ともに魔法を学ぶクラスメイト なのだからな。あそこでは、わたしはただのクリスだ」 「ふふッ、ルイズ、そうしてあげてちょうだい。クリスは見て分かるかもしれないけれど、 格式ばったことが嫌いなのよ」 「し、承知致しました。では……クリス、困ったことがあったらわたしに相談しなさいね。 出来る限りなら力になるから」 「ああ! こちらこそ、どうかよろしく頼む」 クリスがルイズに笑顔を向けていると、アンリエッタは最後に才人へ向き直った。 「サイトさんも、ここまでクリスを無事に連れてきてくれてありがとうございます」 「いやぁ、俺は今回何もしてないですよ」 一緒についてきただけなのにお礼を言われて、才人は少々照れくさくなった。 それにしても、今のアンリエッタはどこか楽しそうだと才人は思った。戦後はかなり影を 背負った様子であったが、現在は年齢相応の少女らしさが窺える。 実際に、アンリエッタは語る。 「わたくし、数日前から今日のこの時間をとても楽しみにしていたの。ルイズとクリス、 二人のお友達と語り合えるなんて。こんなに嬉しいことはないわ」 「もったいないお言葉です、姫さま」 「いいのよ、ルイズ。あなたもクリスのようにもっと気を抜いてちょうだいな」 「そ、そんな! 姫さまを相手にそんなこと出来ません!」 とルイズが言うと、クリスがツッコミを入れた。 「おや、ルイズ。わたしも王族なのだが?」 「あ、あなたは学院ではただのクリスだって自分で言ったじゃない! だからよ!」 「ははは! 冗談だよ、冗談」 「あらあら! 二人はもうすっかり仲良くなったのね」 ルイズとクリスのやり取りにアンリエッタがおかしそうに笑うと、クリスがアンリエッタに告げる。 「そうだ! アンリエッタ、サイトは本当にサムライだったよ」 「そうなの? わたくしには、あなたのお話を聞いてもよく分からなかったのだけれど……」 やはり、トリステイン人のアンリエッタには『侍』の概念がよく理解できなかったようだ。 「サムライに会えただけでも、この国に来た甲斐があったよ。本当にありがとう、アンリエッタ。 お前がわたしをサイトに、そしてルイズに引き合わせてくれたのだ」 「あなたの役に立てたのなら嬉しいわ、クリス」 クリスとアンリエッタが話していると……突然アニエスがノックもなしに部屋に飛び込んできて、 開口一番に報告した。 「ご歓談中失礼致します、陛下。このトリスタニアに怪獣が一体、まっすぐに接近中です!」 「――詳しく教えて」 アンリエッタは瞬時に女王の顔となり、アニエスに求めた。 トリスタニアに接近中という怪獣の現在地、トリスタニアからの距離を教えてもらい、 銃士隊が運んできた遠見の鏡でその姿を確かめる。 『グアァ――――――!』 果たして、鏡に怪獣の容貌が映し出された。二本の角を頭部から生やしたトラのような怪獣であり、 ルイズたちのやってきた魔法学院のある方角からちょうど真逆の方向から四足歩行で一歩一歩城下町に 近づきつつある。双眸は何故か半分しかまぶたが開いていない。 「地殻怪地底獣ティグリスっていう怪獣か……!」 才人が通信端末で怪獣の情報を引き出した。 「現在の移動速度から計算しますと、半刻に満たない時間で怪獣はトリスタニアに侵入することでしょう」 「わかりました、即刻対処致しましょう。ルイズ、サイトさん、一緒に来て下さい」 「承知致しました、姫さま」 アンリエッタがルイズと才人を連れて部屋から出ていこうとすると、クリスが呼び止めた。 「アンリエッタ、お前自ら指揮を執るのか?」 「ええ。国を守ることこそが王族の第一の役割ですもの」 「そうか、すっかり立派な女王になったな……。では、わたしに何か出来ることはないだろうか? 友として、どんなことでも力になるぞ」 クリスはそう申し出たのだが、アンリエッタはゆっくりと首を横に振った。 「大丈夫よ。これでも怪獣を相手にする経験は豊富なのだから。気持ちだけ受け取るわ。 だからあなたはここで吉報を待っていてちょうだい。ありがとう、クリス」 「分かった……。アンリエッタ、ルイズもサイトも、無理はしてくれるなよ!」 クリスの激励を受けながら、アンリエッタたちは部屋を出た。アニエスたち銃士隊を先に 作戦会議室に行かせると、才人とゼロがウルトラ戦士として意見をする。 「姫さま、ティグリスの対処は俺たちに任せてくれないか。データによると、ティグリスは 凶暴性のない、地底で大人しく生活してる怪獣だっていうんだ」 『地上に出てきたのには何か理由があるはずだ。俺たちがあいつを止めてみせるぜ!』 平和を守るために凶悪な敵と戦いながらも、一つでも多くの生命を助けたいと願うウルトラ戦士として、 悪性のない怪獣が傷つけられることは望ましくない。才人とゼロは、ティグリスと人間が無用な衝突を しないようにする考えであった。 アンリエッタも彼らの気持ちを汲む。 「分かりました。ではこの一件は、あなた方に託します。どうかわたくしたちのみならず、 怪獣のことも助けてあげて下さい」 「頑張ってね、サイト、ゼロ!」 「ああ! それじゃ行くぞ! デュワッ!」 ルイズの声援を受けながら、才人はウルトラゼロアイを装着。光となって王宮から飛び出し、 ティグリスの迫る方角へと一直線に飛んでいった。 そして接近するティグリスを発見すると、ウルトラマンゼロの巨大な姿でその面前に着地する。 『よっしゃ! 止まれ、ティグリス!』 降り立ったゼロは早速ティグリスの首周りに組みつき、これ以上の進行を止めようとする。 「グアァ――――――!」 だがティグリスは怪力を発揮し、ゼロを払いのけた。 『うわッ!』 ティグリスは地底深く、常に四方八方から強烈な圧力を受ける環境下で長い時を過ごす生物。 その影響で、肉体は実に強固に出来上がっている。その身体から生じるパワーはかなりのものだ。 単純な力では、ゼロをも上回る。 しかしゼロは無用な暴力は振るわない。しりもちを打ってもすぐ立ち上がり、今度はティグリスの 尻尾をむんずと掴んだ。 『せぇぇぇぇいッ!』 「グアァ――――――!」 ゼロもまた怪力を発揮して、腰をひねってティグリスを街の反対方向に投げ飛ばした。 これでティグリスを街から大分引き離すことが出来た。 が、ティグリスはなおもトリスタニアへの接近を続けようとする。その様子を観察して、 才人がゼロに呼びかけた。 『ゼロ、何だかあいつ、様子が変じゃないか?』 『ああ……俺もちょうどそう思ったところだ』 ティグリスは一心不乱にトリスタニアを目指している。ゼロが止めようとすると抵抗するが、 それ以外の時はゼロのことがまるで目の中に入っていないようだ。 目といえば、ティグリスの視線はどこか虚ろだ。まっすぐ前を向いていないようにさえ見える。 正気ではないのではないだろうか? 『正気じゃないなら、目を覚まさせてやろうぜ!』 ゼロの身体が青く輝き、ルナミラクルゼロへと変身した。そして、 『フルムーンウェーブ!』 手の平からティグリスへ淡い光の粒子を浴びせかける。浄化技、フルムーンウェーブ。 対象の覚醒効果もあるのだ。 「……グアァー?」 フルムーンウェーブの効果は無事に発揮され、ティグリスは半開きだったまぶたがパッチリと開いた。 そして辺りを不思議そうにキョロキョロ見回す。自分がどうして地上にいるのか、分かっていない様子だ。 「グアァ――――――」 やがてティグリスはクルリと半回転して、来た道を静かに引き返していった。このまま元いた 地底の世界に帰っていくのだろう。 『これでティグリスは大丈夫だな。だが……』 あっさりとティグリスを帰らせたゼロだが、釈然としない気持ちを抱えていた。先ほどまでの ティグリスは、明らかに不自然な状態であった。どこかの誰かが、何らかの目的でティグリスを 操ってトリスタニアにけしかけようとしたのだろうか。だが何のために? ティグリスがあまりに 簡単に正気に戻ったのも逆に腑に落ちないし、ティグリスを操作した誰かがいるとするなら、 何故この状況に至っても一向に姿を見せないのか。一体何をしようとしていたのか? 手掛かりが なさすぎて、全く答えが見つからない。 結局ゼロは、空へ飛び立って才人に戻って王宮に戻る以外に出来ることがなかった。 ティグリスを元の生息地に戻した後、ルイズ、才人、クリスの三人も学院へ帰還することとなった。 帰りの馬車の中で、クリスが口を開く。 「最後は忙しなくなったが、無事アンリエッタへの挨拶も済んだ。これで正式に学院での生活が始まるな」 彼女に才人が言う。 「クリス、ほんとに姫さまと仲いいんだな。あんなに楽しそうな姫さま、久しぶりに見た」 それに対し、クリスはこう返す。 「アンリエッタが喜んでいたのは、ルイズにわたしを紹介できたからだと思うぞ?」 「え?」 ルイズは一瞬虚を突かれたかのような顔になった。 「ルイズにわたしを託すことはアンリエッタの、ルイズへの信頼の証だ。わたしとアンリエッタは 友人ではあるが、国というしがらみからは抜け切れない。しかし、ルイズにはそれがないのだから」 「……そうね」 クリスの言葉に、ルイズは若干感心させられた。 「わたしも、アンリエッタのあんな笑顔は久しぶりに見たな。正直、友人を最高の笑顔に 出来るルイズが羨ましいよ」 正面から持ち上げられ、ルイズは気恥ずかしさを覚える。 「な、何言ってるのよ。姫さま、あなたに会えたことだってすごく喜んでらしたじゃない!」 才人はクリスを次のように評した。 「クリスってさ、何て言うか、素直だよなぁ。そういうことを簡単に言えちゃう辺りが」 「そうなのか? 師匠もよくそう言っていた。お前は素直だから色々教え甲斐があると」 クリスが「師匠」の単語を出すと、才人があっと思い出す。 「あ! そうだよ! クリスの師匠のこと、教えてくれよ!」 「ニホンから来たっていうサムライの人?」 聞き返すルイズ。 「そうそう! 詳しく教えてくれ!」 才人がせがむと、クリスは遠い目をしながら語り始めた。 「師匠か……。名はニシキダ・コジューロー・カゲタツ。ここではない世界からこちらに 迷い込んだと言っていた。モノノケ……要するに魔物を退治しながら流浪する旅人だったそうで、 これまで首の前後に顔を持つ鬼、マトーなる悪しき呪術師、心中した男女が化けて出た怨霊などを 退治したという。真実なのかどうかは、わたしにも分からないが」 ニシキダ・コジューロー・カゲタツ……。名前の響きは確かに日本風である。現代日本では 廃れた「諱」があるということは、本当に侍だったのか。さすがに端末に情報はなかった。 「なぁ、サイト。ニホンはどこにあるんだ? 師匠が言っていた通り、異世界にあるのか?」 「えッ、あー、その……すっごい遠くにあるんだ。ここからずーっとずーっと東の、ロバ・アル・カリイレ。 俺はそこからルイズの魔法で召喚されたんだ」 異世界のことをあまり言い触らされても困るので、才人はいつものように「はるか東方から やってきた」設定を使った。 「むむう……。ロバ・アル・カリイレは幻とも言われる地。だから師匠は『異世界』という 表現をしたのかもしれないな。……おっと、すまん。師匠の話だったな」 「その師匠って人とは、どうやって出会ったんだ? 旅人ってことは、俺みたいに召喚された 訳じゃなかったんだろ?」 「ああ。十年ほど前、師匠は我が国にふらりと立ち寄った。そして、とある森の中で魔物に 襲われていた幼い日のわたしを助けてくれたのだ。迅雷のような速さで剣を抜き、あっという間に 魔物を斬り捨てた姿は、とにかく鮮烈だったな……」 クリスは幼き日のヒーローを、熱い口調で説明した。 「わたしは彼に礼をするため、身分を明かし城に招こうとした。が、彼はわたしの身分を知っても 名誉や金を要求せず、更には名乗らずにその場を立ち去ろうとしたのだ。その姿は……わたしに とっては衝撃だった」 当時を思い返しているのか、クリスの瞳はキラキラと輝いている。 「王族であるわたしに取り入ろうとする者は掃いて捨てるほどいる。だが、その正反対な態度を 取った者は師匠が初めてだった。彼は何故そのように振る舞えるのか、わたしは不思議でたまらず、 素直に尋ねた。『褒美が欲しくないのか』と。すると師匠は、『モノノケを退治することが拙者の 使命。拙者の見出したブシドウ。拙者にとってはこれが当たり前のこと故に、見返りなど求めんのさ』 と答えたのだ」 「へええ~! 格好いいなぁ」 クリスの説明の中の、カゲタツの『武士道』に才人はいたく感心した。 「わたしは彼をそのように突き動かす『ブシドウ』というものを知りたくて、半ば無理矢理城に招き、 彼が説くサムライの生きざまに感動し、自分を弟子にしてほしいと願った訳さ」 「じゃあその人、まだクリスの国にいるのか?」 才人の問い返しに、クリスは否定する。 「いや……わたしが大きくなったある日に、この剣を残して忽然と姿を消してしまったのだ。 恐らくは、また魔物退治の旅に出たのだろう。その後どうなったのか……今はどこにいるのか、 故郷のニホンには帰れたのか、何も分からない。師匠ほどの剣の腕ならば、滅多なことは ないとは思うのだが……」 ――クリスのあずかり知らぬことだが、カゲタツ……錦田小十郎景竜はその後、ネオフロンティアスペースの 日本に帰還し、そこで天命を全うした。しかしその霊が、封印を破られて復活した二面鬼・宿那鬼を再度 封じるために現世に蘇ったことは、別の話である。 「別れの挨拶と感謝の気持ちを伝えられなかったことは残念ではあるが……わたしは師匠のお陰で 己の生き方を決められた。そして師匠の教えてくれた『ブシドウ』をこの生ある限り全うしようと誓ったのだ」 クリスは己の師匠を思い返しながら、精一杯の感情と熱意を込めながらその思いを宣言した。 ルイズたちが魔法学院に帰還している頃に、トリステインの空の一画でも、学院を目指す 風竜の影があった。 タバサとシルフィードである。トリステイン・ゲルマニア連合とアルビオンの戦争時に、 キュルケにくっついてトリステインから離れていたのだが、戦争も終わったので久々に学業に 復帰するために一路学院へと向かっているのである。 その旅路の中で、シルフィードがふとつぶやいた。 「それにしてもお姉さま、さっきの任務はすごい肩透かしだったのね」 実はタバサの学院帰還は、もう少し後になるはずだった。ツェルプストー家に滞在していた時に 任務が一件飛び込んできて、それを達成してからのはずだったのだが……いざ任務先に赴いたら、 頼まれたことが既に解決されていたので、予定を切り上げたのである。 「不登校児の貴族の子を学院に通わせるようにするなんて、どうなっちゃうのかシルフィちょっと 楽しみでもあったけれど、その子の家の門を叩いたちょうどその日に、えーっと、何て名前だったっけ? ……そうそう、オリヴァンって子が自分から学院に通うようになったなんて。とんだ無駄足だったのね。 まぁ、お姉さまが楽できたからそれでいいんだけど」 シルフィードが勝手にまくし立てることを、タバサはいつものように本を読みながら聞き流す。 「でもあの子、急に意見を翻したみたいで、一体どうしたのかしら? 昨日までは相変わらず だったそうだけど、ひと晩経ったらすっかり変わったなんて。どんな夢を見たのかしら? それに、 何で逆立ちの練習してたのね? 謎なのね。きゅい」 シルフィードがいくらしゃべっても、タバサはまるで関心を持たない。終わったことに これ以上首を突っ込むつもりはないと、態度が物語っていた。 シルフィードも肩をすくめ、それ以上不登校児の件には触れずにまっすぐ学院の方向へと飛んでいった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔